ほの研ブログ - 2022年ほのぼの研究所クリスマスオンライン講演会
2022年12月20日(火)13時30分より、ほのぼの研究所クリスマス講演会を開催いたしました。新型コロナウィルス感染拡大がいまだに収束に至らないため、一昨年度の設立記念講演会から開始したオンラインでの講演会は、今講演会で6回目となりました。
今講演会は、「超高齢社会におけるサクセスフルエイジング」と題して、慶應義塾大学医学部精神・神経科学教室教授の三村將先生を招待講演講師としてお迎えし、「招待講演」「基調講演」「両講師の対談」「交流会」の4部形式としました。
2022年クリスマスオンライン講演会チラシ
大武美保子弊所代表理事・所長の開会挨拶に続き、東京都新宿区信濃町の慶應義塾大学医学部の研究室から、三村先生にご登壇いただき、「超【幸齢】社会をどう生きるか」と題した招待講演が始まりました。
招待講演講師 三村將先生
三村先生は1984年慶應義塾大学医学部をご卒業後、同年慶應義塾大学医学部精神・神経科学教室に入局。1992年〜1994年までボストン大学医学部行動神経学部門・失語症研究センター・記憶障害研究センター研究員として研究に従事。帰国後は東京歯科大学市川総合病院精神神経科講師として臨床及び研究を行う。2000年より昭和大学医学部精神医学教室に勤務。講師、准教授等を経て、2011年より現職である慶應義塾大学医学部精神・神経科学教室教授に就任。専門は老年精神医学、神経心理学。認知症や老年期うつ病の診療、研究に従事していらっしゃいます。
また、日本高次脳機能障害学会理事長、日本うつ病学会理事長、日本老年精神医学会副理事長、日本神経心理学会理事、日本精神神経学会理事、安全運転医療学会理事等の要職に就かれていらっしゃいます。
今回の講演会は、昨年11月に三村先生が会長として主宰された日本認知症学会学術集会/日本老年精神医学会(同時開催)「人生100年時代の認知症を考える」の会長講演「超高齢社会のサクセスフルエイジング」を今講演会のタイトルとして使用させていただくお許しを得ました。またその講話の一部を「超【幸齢】社会をどう生きるか」と題して、超高齢社会日本に於いて、高齢者が幸福に生きるということはどういうことか、また、あまり高いとはいえない日本の幸福度を高めるためにはどうするべきか、社会がどうなるべきなのかということを改めて考えるために、携わられた疫学コホート研究結果を含めた、専門的かつ広範な知見を、以下2点に絞って話題提供をしていただきました。
(1)サクセルフルエイジングとレジリエンス
(2)エイジングと心理社会的要因
招待講演演題
まず、幸福とは、人それぞれ異なるものの「瞬間的・直接的な快・不快の感情を超越してしみじみと、あるいはほのぼのと感じられる持続的で穏やかな気分状態」であると定義付けられました。さらにそういった状態で歳を重ねていくこと:よく生きるということがサクセスフルエイジングであり、日本を含む高齢社会においては、幸福寿命を延伸する鍵となる概念であると位置づけ、三村先生は「幸齢社会」という造語を使われていると述べられました。
そして、サクセルフルエイジングは、病気を健康と同じように評価し、認知的健康(記憶や遂行機能どの神経心理学的機能だけでなく、認知の枠組みや智恵を含む)と感情的健康(うつや不安などの否定的な感情がないだけでなく、肯定的な感情や統御などのストレス対処も含む)をもって定義すべきだと説かれました。
また、サクセルフルエイジングを考える上で欠かせないポイントとしてレジリエンス(疾病抵抗性・抗病力)について述べられました。これは人生の様々なストレスフルな状態に対する抵抗力のことを指します。「多くの高齢者は,身体的機能、経済的自立、親密な対人関係の喪失といったさまざま逆境やストレスフルな生活を送ってきた。けれども、そこから回復する過程で自己の価値や人生の意味を追求し続け,逆境から新たなことを学ぶとともにそれをきっかけに前進することができてきている。そのため、加齢に伴ってネガティブな状況が増えるにもかかわらず、高齢者の私的幸福感(ウェルビーイング)は上がる=Aging Paradoxという現象が起こっている。」と述べられました。このことから、多くの高齢者は疾患や障害を抱えながらも、サクセスフルエイジングを達成しており、言い換えればサクセスフルエイジングは「疾患や障害がない」のではなく、「疾患・障害への適応」でもあると説かれました。
自己評価による高齢者のエイジング評価
次に慶應義塾大学医学部精神神経科が関連する以下のコホート研究などから得られた、エイジングと心理社会的要因の関係が紹介されました。
慶應義塾大学精神神経科の高齢者コホート
・JPHC研究からは、コーピングが将来の自殺のみならず、身体疾患の予後にも影響することが示されている
・Arakawa65+Studyでは、高いポジティブ感情、社会資源、自己効力感、レジリエンスと共に、アプローチコーピングストラテジーが抑うつの発症と負の関連を示す
・Arakawa65+Studyでは、コーピングストラテジーと海馬全体あるいは一部の容積と関連している
・Arakawa 85+及び95+Studyでは、パーソナリティと認知機能、抑うつとが関連している
・Arakawa95+Study、さらに百寿者研究では、老年的超越は認知機能低下、抑うつ、フレイルと関連している
また、認知機能と抑うつの分布を見てみると、85歳以上では認知症が25%、うつが14%、95歳以上は認知症が60%、うつが20%の領域にあるも、95歳以上になると、通常加齢とともに下がってくる幸福度に関する因子の数値がやがて上がってくるという老年的超越(物質的で合理的な見かたから、加齢に伴い、より宇宙的で超越的な視点への変換)が見られることも述べられました。すなわち老化に伴う各種能力の衰えを否定的に捉えず、現状を肯定し、主観的幸福感を抱くようになることも重要なことだと説かれました。
晩年期に現れる主観的幸福感の老年的超越
さらに日本では、近い将来10万人以上に達すると想定される100歳(百寿者)になると、何とか生きていこうというよりも、むしろ生かされているというような超越的な感覚を持つようになるため、長生きができるのではないかと思うと述べられました。
以上の講話を通して、これまで認識の薄かった心理社会的な加齢に伴う一連の変化を伺うことができました。そして、例え健康寿命が絶たれても、前向きな心を持ち続け、レジリエンスを高める生活を送ることで、高いQOLやウェルビーイングを保ち続けることができる可能性を確認することができました。
COI-NEXT共創の場 研究開発課題のイメージ
そして最後に三村先生から、誰もが参加し繋がることでウェルビーイングを実現する都市型ヘルスコモンズCOI―NEXT共創の場(拠点:慶應義塾大学)において、「認知症になっても日々生き生き「寄り添う研究」のリーダーとして、「認知症になっても、やりたいことがあったら、それができるような生活、そしてそのために生きがいや悦びを維持していくには何ができるか、特に最新のAI、あるいは先端機器のようなものを使ってどのようなことができるのか」という研究を推進している旨が力強く述べられ、講話を締められました。
次いで、大武美保子代表理事・所長が東京の日本橋の理化学研究所から「高齢者を見守り、声掛けをするロボットの開発」と題して、彼女が高齢者の健康の維持に資することを目的として開発しているロボットにまつわる基調講演を行いました。
基調講演演題
まず、最初にWHO憲章「健康とは肉体的、精神的及び社会的に完全に良好な状態であり、単に疾病又は病弱の存在しないことではない」に則り、高齢者の健康を「(自分や家族に)病気があっても、人生に極力支障がないように工夫して(レジリエンス)質の高い生活ができる状態」と定義づけ講話を始めました。
そして、代表理事・所長を務める彼女の研究フィールド:ほのぼの研究所メンバーや共想法参加者、(多くが本人あるいは家族に疾病や障害がある後期高齢者)の実験研究協力や観察を通して、高齢者の認知機能維持に働きかけ、レジリアントで質の高い生活を補助するロボットの開発プロセスを、実際の使用場面の動画を用いて披露しました。
まずロボットに何をさせるか、ロボットとの唯一の交流ツールでもあり、利用者が考えたり、話したり、行動したりするきっかけとなる「声掛け」については質の高い生活=やりたいことができるように気づかせるため、綿密なプロセスを経て「言葉」をセレクトしていくプロセスを説明しました。
【質の高い生活を助けるためのロボットへの声掛け】の企画プロセス
【すでにしているやりたいことについて聞くロボットへの声掛け】の企画プロセス
【これからやりたいことについて聞くロボット】の企画プロセス
また、ロボットが対応(回答)するセリフは、どのように相手が答えても、もっともらしく聞こえ、次の発言に導くように想定のセリフを多様に用意すると共に、発言するタイミングが息継ぎなのか、終話なのかを見計らう間合いを推定する技術を開発し、話のシナリオをうまく作れば、スムーズな会話が可能になり、会話において自分の考えを整理していけるということを確認できたと述べました。
さらに、ほのぼの研究所で継続実践している会話で認知機能を育む手法:共想法のフローのうち、一番難易度の高い、参加者の話を「聞き」「質問する」という部分だけを取り出して実装したロボットを使って、高齢者宅にて共想法をしていただく実験を行ったという報告がありました。提供される話題に関する想定問答は予め登録し、多様な話題をスケジュールに添って各ロボットに配信する技術を開発したとのことで、まだ実験期間が短いものの、対面で共想法に一定期間参加した被験者と同じ種類の認知機能の数値がよくなる傾向があったとの結果を得ているとのことで、今後の実験期間や頻度を充実させての結果が期待されます。
高齢者が話を聞き質問を考えることで、認知機能を育むロボット
共想法形式の会話の「聞く」「質問する」機能を実装
今回紹介したロボットは疾病や障害があっても、人生に支障がないように、具体的には認知機能をなるべく下げないように、したいことができるようにと企画設計されているため、三村先生のご講演でもご紹介のあったCOI-NEXTプロジェクトに参加して、さらに研究、開発を続けていきたいという抱負を述べて終話いたしました。
https://www.health-commons.com/
JST共創の場形成支援援プログラム
https://www.health-commons.com/randd#theme4
誰もが参加し繋がることができるができることでウェルビーイングを実現する都市型ヘルスコモンズ共創拠点
休憩を挟んでの三村生と大武所長との対談では、まず、三村先生が大学ご入学時には心理学科に籍を置かれるも、今のご専門は老年精神医学,神経心理学の研究に、大武所長が工学部出身ながら認知症予防の研究にと、多くの転機を経て辿りつかれた経緯をお互いに披露。その都度の様々な研究者や研究との出会いが非常に有意義に働いていることを思い起こされ、共有されました
対談演題
事後しばらく調査研究の方法、実験結果の効果測定方法等について研究者同志の熱いやりとりが続いた後、視聴者からの質問「後期高齢者の自動車運転」について、三村先生がお答え下さいました。三村先生は安全運転医療学会理事という要職に就かれ、高齢者の自動車運転についての課題をライフワークの一つとして携わってこられているだけに、現状の問題点を含めて大変詳細に、以下のようなご教示を下さいました。
1) 年を重ねるほど、運転能力、運転機能等の機能の個人差、性差が大きくなるため、運転の可否について、少なくとも年齢でしばるべきではない
2) 地方では足としてのニーズが根強く、しかも高齢者自身が運転をせざるを得ない状況があるため、認知症と診断された人は運転免許の更新ができないが、医師の記載する診断書の内容やその対応にばらつきがある等の問題点がある。またサポートカー限定免許に関しても規定が曖昧
3) 医師の診断・評価を得ながらなら、認知機能が低下していても運転可能なこともあるが、レビー小体型認知症、前頭側頭型認知症の場合は運転は特にリスクが高い
4) 病名や年齢でしばるのではなく、運転がしっかりできる認知機能、予測力、判断力、運転操作能力が保たれているかということを、医療機関(運転評価外来など)での一定の評価を受け、公安委員会や免許証センターでの実車評価を受け、さらには同乗者の評価も参考にしながら続けていくことが大事→運転寿命の延伸→サクセルフルエイジング
次いで、大武所長へ投げかけられたロボットの声等に関する質問には論文(下記)の提示に替えさせていただきました。会話支援手法、共想法の司会を、ロボットが行う場合と、スピーカーが行う場合に、参加者がそれぞれどのように感じるかを調査したものです。
また、海外在住の高齢者が若々しく見えるのは、宗教的な支えもあるコミュニティに属するという社会的つながりも影響しているように思うが、ウェルビーイングの観点ではその重要度は大きいのかどうかという質問に対しては、日本は海外に比べると定着していないが、宗教的なスピリチュアリティを心理社会的要素として捉えることは非常に重要であると答えられました。
https://link.springer.com/article/10.1007/s12369-022-00925-7
Voice Over Body? Older Adults’ Reactions to Robot and Voice Assistant Facilitators of Group Conversation
(ロボットとスピーカーによるグループ会話の司会への高齢者の反応に関する研究)
最後の企画:オンライン(お茶会兼)交流会は、システム上、ご参加のためにリンク先を変更していただくお手間をかけることとなりましたが、飛び入りも含めて、拠点のある関東圏はもとより、北海道からの交流会初参加の方を含めて大阪府、長野県と幅広いエリアからご参加いただきました。三村先生は時間の都合上中座されましたが、前半では、参加者のポジティブな様子を大いに感じていただけたようでした。
交流会参加との記念撮影
参加者全員が、一言自己紹介、近況報告や講演会の感想などを述べ、和やかなオンラインでの対面が久しぶりに叶ったことは、一足早いクリスマスプレゼントのように、心温まるものとなりました。最後に画面上で記念撮影を行い、お開きとなりました。
今講演会は、「超高齢社会におけるサクセスフルエイジング」と題して、慶應義塾大学医学部精神・神経科学教室教授の三村將先生を招待講演講師としてお迎えし、「招待講演」「基調講演」「両講師の対談」「交流会」の4部形式としました。
2022年クリスマスオンライン講演会チラシ
大武美保子弊所代表理事・所長の開会挨拶に続き、東京都新宿区信濃町の慶應義塾大学医学部の研究室から、三村先生にご登壇いただき、「超【幸齢】社会をどう生きるか」と題した招待講演が始まりました。
招待講演講師 三村將先生
三村先生は1984年慶應義塾大学医学部をご卒業後、同年慶應義塾大学医学部精神・神経科学教室に入局。1992年〜1994年までボストン大学医学部行動神経学部門・失語症研究センター・記憶障害研究センター研究員として研究に従事。帰国後は東京歯科大学市川総合病院精神神経科講師として臨床及び研究を行う。2000年より昭和大学医学部精神医学教室に勤務。講師、准教授等を経て、2011年より現職である慶應義塾大学医学部精神・神経科学教室教授に就任。専門は老年精神医学、神経心理学。認知症や老年期うつ病の診療、研究に従事していらっしゃいます。
また、日本高次脳機能障害学会理事長、日本うつ病学会理事長、日本老年精神医学会副理事長、日本神経心理学会理事、日本精神神経学会理事、安全運転医療学会理事等の要職に就かれていらっしゃいます。
今回の講演会は、昨年11月に三村先生が会長として主宰された日本認知症学会学術集会/日本老年精神医学会(同時開催)「人生100年時代の認知症を考える」の会長講演「超高齢社会のサクセスフルエイジング」を今講演会のタイトルとして使用させていただくお許しを得ました。またその講話の一部を「超【幸齢】社会をどう生きるか」と題して、超高齢社会日本に於いて、高齢者が幸福に生きるということはどういうことか、また、あまり高いとはいえない日本の幸福度を高めるためにはどうするべきか、社会がどうなるべきなのかということを改めて考えるために、携わられた疫学コホート研究結果を含めた、専門的かつ広範な知見を、以下2点に絞って話題提供をしていただきました。
(1)サクセルフルエイジングとレジリエンス
(2)エイジングと心理社会的要因
招待講演演題
まず、幸福とは、人それぞれ異なるものの「瞬間的・直接的な快・不快の感情を超越してしみじみと、あるいはほのぼのと感じられる持続的で穏やかな気分状態」であると定義付けられました。さらにそういった状態で歳を重ねていくこと:よく生きるということがサクセスフルエイジングであり、日本を含む高齢社会においては、幸福寿命を延伸する鍵となる概念であると位置づけ、三村先生は「幸齢社会」という造語を使われていると述べられました。
そして、サクセルフルエイジングは、病気を健康と同じように評価し、認知的健康(記憶や遂行機能どの神経心理学的機能だけでなく、認知の枠組みや智恵を含む)と感情的健康(うつや不安などの否定的な感情がないだけでなく、肯定的な感情や統御などのストレス対処も含む)をもって定義すべきだと説かれました。
また、サクセルフルエイジングを考える上で欠かせないポイントとしてレジリエンス(疾病抵抗性・抗病力)について述べられました。これは人生の様々なストレスフルな状態に対する抵抗力のことを指します。「多くの高齢者は,身体的機能、経済的自立、親密な対人関係の喪失といったさまざま逆境やストレスフルな生活を送ってきた。けれども、そこから回復する過程で自己の価値や人生の意味を追求し続け,逆境から新たなことを学ぶとともにそれをきっかけに前進することができてきている。そのため、加齢に伴ってネガティブな状況が増えるにもかかわらず、高齢者の私的幸福感(ウェルビーイング)は上がる=Aging Paradoxという現象が起こっている。」と述べられました。このことから、多くの高齢者は疾患や障害を抱えながらも、サクセスフルエイジングを達成しており、言い換えればサクセスフルエイジングは「疾患や障害がない」のではなく、「疾患・障害への適応」でもあると説かれました。
自己評価による高齢者のエイジング評価
次に慶應義塾大学医学部精神神経科が関連する以下のコホート研究などから得られた、エイジングと心理社会的要因の関係が紹介されました。
慶應義塾大学精神神経科の高齢者コホート
・JPHC研究からは、コーピングが将来の自殺のみならず、身体疾患の予後にも影響することが示されている
・Arakawa65+Studyでは、高いポジティブ感情、社会資源、自己効力感、レジリエンスと共に、アプローチコーピングストラテジーが抑うつの発症と負の関連を示す
・Arakawa65+Studyでは、コーピングストラテジーと海馬全体あるいは一部の容積と関連している
・Arakawa 85+及び95+Studyでは、パーソナリティと認知機能、抑うつとが関連している
・Arakawa95+Study、さらに百寿者研究では、老年的超越は認知機能低下、抑うつ、フレイルと関連している
また、認知機能と抑うつの分布を見てみると、85歳以上では認知症が25%、うつが14%、95歳以上は認知症が60%、うつが20%の領域にあるも、95歳以上になると、通常加齢とともに下がってくる幸福度に関する因子の数値がやがて上がってくるという老年的超越(物質的で合理的な見かたから、加齢に伴い、より宇宙的で超越的な視点への変換)が見られることも述べられました。すなわち老化に伴う各種能力の衰えを否定的に捉えず、現状を肯定し、主観的幸福感を抱くようになることも重要なことだと説かれました。
晩年期に現れる主観的幸福感の老年的超越
さらに日本では、近い将来10万人以上に達すると想定される100歳(百寿者)になると、何とか生きていこうというよりも、むしろ生かされているというような超越的な感覚を持つようになるため、長生きができるのではないかと思うと述べられました。
以上の講話を通して、これまで認識の薄かった心理社会的な加齢に伴う一連の変化を伺うことができました。そして、例え健康寿命が絶たれても、前向きな心を持ち続け、レジリエンスを高める生活を送ることで、高いQOLやウェルビーイングを保ち続けることができる可能性を確認することができました。
COI-NEXT共創の場 研究開発課題のイメージ
そして最後に三村先生から、誰もが参加し繋がることでウェルビーイングを実現する都市型ヘルスコモンズCOI―NEXT共創の場(拠点:慶應義塾大学)において、「認知症になっても日々生き生き「寄り添う研究」のリーダーとして、「認知症になっても、やりたいことがあったら、それができるような生活、そしてそのために生きがいや悦びを維持していくには何ができるか、特に最新のAI、あるいは先端機器のようなものを使ってどのようなことができるのか」という研究を推進している旨が力強く述べられ、講話を締められました。
次いで、大武美保子代表理事・所長が東京の日本橋の理化学研究所から「高齢者を見守り、声掛けをするロボットの開発」と題して、彼女が高齢者の健康の維持に資することを目的として開発しているロボットにまつわる基調講演を行いました。
基調講演演題
まず、最初にWHO憲章「健康とは肉体的、精神的及び社会的に完全に良好な状態であり、単に疾病又は病弱の存在しないことではない」に則り、高齢者の健康を「(自分や家族に)病気があっても、人生に極力支障がないように工夫して(レジリエンス)質の高い生活ができる状態」と定義づけ講話を始めました。
そして、代表理事・所長を務める彼女の研究フィールド:ほのぼの研究所メンバーや共想法参加者、(多くが本人あるいは家族に疾病や障害がある後期高齢者)の実験研究協力や観察を通して、高齢者の認知機能維持に働きかけ、レジリアントで質の高い生活を補助するロボットの開発プロセスを、実際の使用場面の動画を用いて披露しました。
まずロボットに何をさせるか、ロボットとの唯一の交流ツールでもあり、利用者が考えたり、話したり、行動したりするきっかけとなる「声掛け」については質の高い生活=やりたいことができるように気づかせるため、綿密なプロセスを経て「言葉」をセレクトしていくプロセスを説明しました。
【質の高い生活を助けるためのロボットへの声掛け】の企画プロセス
【すでにしているやりたいことについて聞くロボットへの声掛け】の企画プロセス
【これからやりたいことについて聞くロボット】の企画プロセス
また、ロボットが対応(回答)するセリフは、どのように相手が答えても、もっともらしく聞こえ、次の発言に導くように想定のセリフを多様に用意すると共に、発言するタイミングが息継ぎなのか、終話なのかを見計らう間合いを推定する技術を開発し、話のシナリオをうまく作れば、スムーズな会話が可能になり、会話において自分の考えを整理していけるということを確認できたと述べました。
さらに、ほのぼの研究所で継続実践している会話で認知機能を育む手法:共想法のフローのうち、一番難易度の高い、参加者の話を「聞き」「質問する」という部分だけを取り出して実装したロボットを使って、高齢者宅にて共想法をしていただく実験を行ったという報告がありました。提供される話題に関する想定問答は予め登録し、多様な話題をスケジュールに添って各ロボットに配信する技術を開発したとのことで、まだ実験期間が短いものの、対面で共想法に一定期間参加した被験者と同じ種類の認知機能の数値がよくなる傾向があったとの結果を得ているとのことで、今後の実験期間や頻度を充実させての結果が期待されます。
高齢者が話を聞き質問を考えることで、認知機能を育むロボット
共想法形式の会話の「聞く」「質問する」機能を実装
今回紹介したロボットは疾病や障害があっても、人生に支障がないように、具体的には認知機能をなるべく下げないように、したいことができるようにと企画設計されているため、三村先生のご講演でもご紹介のあったCOI-NEXTプロジェクトに参加して、さらに研究、開発を続けていきたいという抱負を述べて終話いたしました。
https://www.health-commons.com/
JST共創の場形成支援援プログラム
https://www.health-commons.com/randd#theme4
誰もが参加し繋がることができるができることでウェルビーイングを実現する都市型ヘルスコモンズ共創拠点
休憩を挟んでの三村生と大武所長との対談では、まず、三村先生が大学ご入学時には心理学科に籍を置かれるも、今のご専門は老年精神医学,神経心理学の研究に、大武所長が工学部出身ながら認知症予防の研究にと、多くの転機を経て辿りつかれた経緯をお互いに披露。その都度の様々な研究者や研究との出会いが非常に有意義に働いていることを思い起こされ、共有されました
対談演題
事後しばらく調査研究の方法、実験結果の効果測定方法等について研究者同志の熱いやりとりが続いた後、視聴者からの質問「後期高齢者の自動車運転」について、三村先生がお答え下さいました。三村先生は安全運転医療学会理事という要職に就かれ、高齢者の自動車運転についての課題をライフワークの一つとして携わってこられているだけに、現状の問題点を含めて大変詳細に、以下のようなご教示を下さいました。
1) 年を重ねるほど、運転能力、運転機能等の機能の個人差、性差が大きくなるため、運転の可否について、少なくとも年齢でしばるべきではない
2) 地方では足としてのニーズが根強く、しかも高齢者自身が運転をせざるを得ない状況があるため、認知症と診断された人は運転免許の更新ができないが、医師の記載する診断書の内容やその対応にばらつきがある等の問題点がある。またサポートカー限定免許に関しても規定が曖昧
3) 医師の診断・評価を得ながらなら、認知機能が低下していても運転可能なこともあるが、レビー小体型認知症、前頭側頭型認知症の場合は運転は特にリスクが高い
4) 病名や年齢でしばるのではなく、運転がしっかりできる認知機能、予測力、判断力、運転操作能力が保たれているかということを、医療機関(運転評価外来など)での一定の評価を受け、公安委員会や免許証センターでの実車評価を受け、さらには同乗者の評価も参考にしながら続けていくことが大事→運転寿命の延伸→サクセルフルエイジング
次いで、大武所長へ投げかけられたロボットの声等に関する質問には論文(下記)の提示に替えさせていただきました。会話支援手法、共想法の司会を、ロボットが行う場合と、スピーカーが行う場合に、参加者がそれぞれどのように感じるかを調査したものです。
また、海外在住の高齢者が若々しく見えるのは、宗教的な支えもあるコミュニティに属するという社会的つながりも影響しているように思うが、ウェルビーイングの観点ではその重要度は大きいのかどうかという質問に対しては、日本は海外に比べると定着していないが、宗教的なスピリチュアリティを心理社会的要素として捉えることは非常に重要であると答えられました。
https://link.springer.com/article/10.1007/s12369-022-00925-7
Voice Over Body? Older Adults’ Reactions to Robot and Voice Assistant Facilitators of Group Conversation
(ロボットとスピーカーによるグループ会話の司会への高齢者の反応に関する研究)
最後の企画:オンライン(お茶会兼)交流会は、システム上、ご参加のためにリンク先を変更していただくお手間をかけることとなりましたが、飛び入りも含めて、拠点のある関東圏はもとより、北海道からの交流会初参加の方を含めて大阪府、長野県と幅広いエリアからご参加いただきました。三村先生は時間の都合上中座されましたが、前半では、参加者のポジティブな様子を大いに感じていただけたようでした。
交流会参加との記念撮影
参加者全員が、一言自己紹介、近況報告や講演会の感想などを述べ、和やかなオンラインでの対面が久しぶりに叶ったことは、一足早いクリスマスプレゼントのように、心温まるものとなりました。最後に画面上で記念撮影を行い、お開きとなりました。
市民研究員 長久秀子