ほの研ブログ - 国際回想法学会・米国老年学会参加報告
2009年12月8日に、ほのぼの研究所のクリスマス講演会において、「国際回想法学会・米国老年学会参加報告」と題した講演の概要を、まとめましたのでご覧ください。
2009年11月16日(月)から22日(日)まで一週間、米国南部の中心都市、ジョージア州アトランタを訪問し、国際回想法学会ならびに米国老年学会に参加しました。国際回想法学会は17日から18日にかけて開催され、米国老年学会は、19日から21日までを中心日程として開催されました。前者は全日程、後者は最初の二日間に参加しました。いずれも分野の重要人物が集まり、最先端の議論が行われましたので、その一端をご報告します。
<国際回想法学会>
国際回想法学会は、1995年に第一回が開催され、以後二年に一回、米国老年学会の前に開催されてきました。2009年で第八回です。回想法に関する専門家が集まり、参加者約50名と小規模で双方向の議論ができる国際会議でした。
会場はホテルの会議室で、テーブルクロスのかかった円卓が部屋全体に設置されていて、パーティー会場のようでした。参加者は好きな席に座り、そこでコーヒーを飲んだり、時に食事をとったりしながら、くつろいだ雰囲気で講演を聞き、議論をしました。
○2009年11月17日 国際回想法学会 一日目
午前は、ライフレビュー(Life Review)、午後は、ガイド付き自伝(Guided Autobiography)に関するワークショップ。いずれも参加型で、テーマに沿って二人一組、または、円卓を囲んで話し合う形式で行われました。夕方からは講演と、立食パーティーでした。
ライフレビューワークショップ
○2009年11月18日 国際回想法学会 二日目
午前、午後と講演があり、間に昼食をとりながらのグループ討論が行われました。テーブルによって討論のテーマが異なり、好きなテーブルに座ります。二日目の午後の講演では、「共想法:同じ画像を見て制限時間の中で想いを共有する」と題し、発表しました。具体的な手順と共に、回想法との違い、文化的背景の違いを説明しました。
午後の講演の後は、ポスターを含む全部の発表についての総合討論を行い、最後に会場をレストランに移して夕食会が行われました。
国際回想法学会での発表の様子
夕食会で少女達!の掛け声に集う参加者
回想法は、高齢者に過去の思い出を想起するように働きかけることで、情動の安定などの心理的な効果を導く対人援助手段で、アメリカの精神科医であるロバート・バトラー(1963)によって提唱されたライフレヴュー(Life review)という概念から発展、普及したものです。
国際回想法学会の参加者は、医師、看護師、臨床心理士、芸術家、作家など、様々な職業に就き、研究分野は心理学、医学、看護学、美学に加えて、哲学、歴史学、女性学、ジャーナリズム、異文化コミュニケーション、そして工学と幅広く、回想法へのアプローチは多様であることを実感しました。
回想法の研究と実践の紹介サイト内に国際回想法ライフレヴュー学会2009 参加報告がありますので、併せてご覧下さい。
<米国老年学会>
米国老年学会は毎年開催され、今年で62回目の開催です。2009年の米国老年学会のテーマは「健康に老いを迎えるための創造的な方法」でした。ヒルトンホテルとマリオットホテルの両方を会場とする、とても大規模な会議で、参加者数は約3300名です。
本会議は五日間、多くのセッションが一日組まれる中心日程は中三日間で、国際回想法学会の翌日から、一日目と二日目に参加聴講しました。複数のセッションが並列に開催され、同じ時間に見ることができるのは一つなので、以下の報告は、報告者個人の興味の赴くまま見聞きした、いわば虫の視点からのものです。
○2009年11月19日 米国老年学会 一日目
午前のオープニングセッションは、先見の芸術(The Art of Vision)と題する講演です。大画面に音楽つきの映像を映しながら、肖像画を上下逆さに描き、最後にひっくり返すことで、何を描いたかが分かる実演をしました。年を取ることによって制約が生じるからこそ、その制約を超える新たな工夫や知恵があると実感され、会場は興奮に満ちた雰囲気になりました。
午後は、状況と加齢による認知機能の変化、シアトル縦断研究、医療と地域の連携による50歳から64歳までの疾病予防に関するセッションを聞き、ポスター発表を見て、夕食の後、技術と老化に関する分科会に参加しました。
オープニングセッション「先見の芸術(The Art of Vision)」
上下逆さの肖像画を描く講演者
○2009年11月20日 米国老年学会 二日目
午前は、健康な老いのための地域からのアプローチ、受賞講演を聞きました。昼は部門別会議で、ビュッフェ形式で行われました。午後は、積極的に暮らす事による健康な老い、高齢者が参加する世界中の研究に関するセッションを聞き、展示を見て、夕方は全体会議の後、回想と加齢に関する分科会に参加しました。
高齢者が参加する世界中の研究に関するセッションの中で、イギリスの田舎の暮らしに関する研究の発表があり、若い研究者が導入を、研究に参加した高齢者が現場での実施報告をしました。研究対象は高齢者ではありませんが、研究する高齢者という点でほのぼの研究所と通じるところがあります。
ビュッフェ形式の部門別会議(行動社会科学部門)
研究成果を発表するイギリスの高齢者
老年学とは、老化あるいは加齢現象を研究する科学で、加齢現象のうち、老年学では特に、個体の成熟から自然死までの期間に生じる変化を対象とします。老年学会には、生命科学、健康科学、行動社会科学、政策実践社会学の四つの部会があり、老年学を構成する研究領域に対応します。
米国老年学会会員の約60%が女性です。これは、看護学の分野の参加者が増えているためで、学会事務局によると、ここ5-6年の傾向とのことです。実際に参加してみて、医学系学会が多くを占める、今年の六月に参加した日本老年学会総会とは雰囲気が異なることを実感しました。老年期を扱う学問について、どの分野を出発点とするかは国により異なり、時代と共に変化するものと思います。
大武美保子
<概要>2009年11月16日(月)から22日(日)まで一週間、米国南部の中心都市、ジョージア州アトランタを訪問し、国際回想法学会ならびに米国老年学会に参加しました。国際回想法学会は17日から18日にかけて開催され、米国老年学会は、19日から21日までを中心日程として開催されました。前者は全日程、後者は最初の二日間に参加しました。いずれも分野の重要人物が集まり、最先端の議論が行われましたので、その一端をご報告します。
<国際回想法学会>
国際回想法学会は、1995年に第一回が開催され、以後二年に一回、米国老年学会の前に開催されてきました。2009年で第八回です。回想法に関する専門家が集まり、参加者約50名と小規模で双方向の議論ができる国際会議でした。
会場はホテルの会議室で、テーブルクロスのかかった円卓が部屋全体に設置されていて、パーティー会場のようでした。参加者は好きな席に座り、そこでコーヒーを飲んだり、時に食事をとったりしながら、くつろいだ雰囲気で講演を聞き、議論をしました。
○2009年11月17日 国際回想法学会 一日目
午前は、ライフレビュー(Life Review)、午後は、ガイド付き自伝(Guided Autobiography)に関するワークショップ。いずれも参加型で、テーマに沿って二人一組、または、円卓を囲んで話し合う形式で行われました。夕方からは講演と、立食パーティーでした。
ライフレビューワークショップ
○2009年11月18日 国際回想法学会 二日目
午前、午後と講演があり、間に昼食をとりながらのグループ討論が行われました。テーブルによって討論のテーマが異なり、好きなテーブルに座ります。二日目の午後の講演では、「共想法:同じ画像を見て制限時間の中で想いを共有する」と題し、発表しました。具体的な手順と共に、回想法との違い、文化的背景の違いを説明しました。
午後の講演の後は、ポスターを含む全部の発表についての総合討論を行い、最後に会場をレストランに移して夕食会が行われました。
国際回想法学会での発表の様子
夕食会で少女達!の掛け声に集う参加者
回想法は、高齢者に過去の思い出を想起するように働きかけることで、情動の安定などの心理的な効果を導く対人援助手段で、アメリカの精神科医であるロバート・バトラー(1963)によって提唱されたライフレヴュー(Life review)という概念から発展、普及したものです。
国際回想法学会の参加者は、医師、看護師、臨床心理士、芸術家、作家など、様々な職業に就き、研究分野は心理学、医学、看護学、美学に加えて、哲学、歴史学、女性学、ジャーナリズム、異文化コミュニケーション、そして工学と幅広く、回想法へのアプローチは多様であることを実感しました。
回想法の研究と実践の紹介サイト内に国際回想法ライフレヴュー学会2009 参加報告がありますので、併せてご覧下さい。
<米国老年学会>
米国老年学会は毎年開催され、今年で62回目の開催です。2009年の米国老年学会のテーマは「健康に老いを迎えるための創造的な方法」でした。ヒルトンホテルとマリオットホテルの両方を会場とする、とても大規模な会議で、参加者数は約3300名です。
本会議は五日間、多くのセッションが一日組まれる中心日程は中三日間で、国際回想法学会の翌日から、一日目と二日目に参加聴講しました。複数のセッションが並列に開催され、同じ時間に見ることができるのは一つなので、以下の報告は、報告者個人の興味の赴くまま見聞きした、いわば虫の視点からのものです。
○2009年11月19日 米国老年学会 一日目
午前のオープニングセッションは、先見の芸術(The Art of Vision)と題する講演です。大画面に音楽つきの映像を映しながら、肖像画を上下逆さに描き、最後にひっくり返すことで、何を描いたかが分かる実演をしました。年を取ることによって制約が生じるからこそ、その制約を超える新たな工夫や知恵があると実感され、会場は興奮に満ちた雰囲気になりました。
午後は、状況と加齢による認知機能の変化、シアトル縦断研究、医療と地域の連携による50歳から64歳までの疾病予防に関するセッションを聞き、ポスター発表を見て、夕食の後、技術と老化に関する分科会に参加しました。
オープニングセッション「先見の芸術(The Art of Vision)」
上下逆さの肖像画を描く講演者
○2009年11月20日 米国老年学会 二日目
午前は、健康な老いのための地域からのアプローチ、受賞講演を聞きました。昼は部門別会議で、ビュッフェ形式で行われました。午後は、積極的に暮らす事による健康な老い、高齢者が参加する世界中の研究に関するセッションを聞き、展示を見て、夕方は全体会議の後、回想と加齢に関する分科会に参加しました。
高齢者が参加する世界中の研究に関するセッションの中で、イギリスの田舎の暮らしに関する研究の発表があり、若い研究者が導入を、研究に参加した高齢者が現場での実施報告をしました。研究対象は高齢者ではありませんが、研究する高齢者という点でほのぼの研究所と通じるところがあります。
ビュッフェ形式の部門別会議(行動社会科学部門)
研究成果を発表するイギリスの高齢者
老年学とは、老化あるいは加齢現象を研究する科学で、加齢現象のうち、老年学では特に、個体の成熟から自然死までの期間に生じる変化を対象とします。老年学会には、生命科学、健康科学、行動社会科学、政策実践社会学の四つの部会があり、老年学を構成する研究領域に対応します。
米国老年学会会員の約60%が女性です。これは、看護学の分野の参加者が増えているためで、学会事務局によると、ここ5-6年の傾向とのことです。実際に参加してみて、医学系学会が多くを占める、今年の六月に参加した日本老年学会総会とは雰囲気が異なることを実感しました。老年期を扱う学問について、どの分野を出発点とするかは国により異なり、時代と共に変化するものと思います。