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ほの研ブログ - 2021年ほのぼの研究所クリスマスオンライン講演会

2021年ほのぼの研究所クリスマスオンライン講演会

カテゴリ : 
ほの研日誌 » 行事
執筆 : 
NagahisaH 2022-1-9 8:00
 2021年12月14日(火)13時30分より、ほのぼの研究所クリスマス講演会を開催いたしました。新型コロナウィルス感染拡、昨年度の設立記念講演会から開始したオンラインでの講演会も今講演会で4回目となりました。
今講演会は、「科学的に認知症予防を考える」と題して、日本認知症予防学会理事長を務められている、「認知症診断・予防の第一人者」である鳥取大学医学部教授の浦上克哉先生を招待講演講師としてお迎えし、「招待講演」「基調講演」「両講師の対談」の三部形式としました。

クリスマスオンライン講演会タイトル画像

 大武美保子弊所代表理事・所長の開会挨拶に続き、米子市の鳥取大学医学部の研究室より、ほのぼの研究所クリスマス講演会恒例のクリスマスコスチュームをご着用いただいた浦上克哉先生にご登壇いただき、「科学的に正しい認知症予防の普及・啓発に向けて」と題した講話が始まりました。

招待講演講師 浦上克哉先生

浦上先生は1983年に鳥取大学医学科を卒業。同大大学院の博士課程を修了し、1990年より同大の脳神経内科にて勤務後、同大の保健学科生体制御学講座環境保健学分野、並びに同大の医用検査学分野病態解析学の教授を併任されています。2011年に日本認知症予防学会を設立以来理事長の要職に就かれています。
日本老年精神医学理事、日本老年学会理事、日本認知症予防学会専門医であり、アルツハイマー型認知症及び関連疾患を専門とし、診断マーカーの開発研究、外来での診察と治療、予防、ケアなど総合的に認知症研究に取り組んでいらっしゃいます。また、認知症早期発見のためのタッチパネル式コンピューター「物忘れ相談プログラム」などの機器の開発、アロマによる認知症の予防効果の研究、NHK「あさいち」「チョイス」「きょうの健康」、「たけしの家庭の医学」、「主治医が見つかる診療所」等テレビにも多数出演し、幅広く精力的に啓発活動を行っていらっしゃいます。
 TVなどへのご登場時の、物腰の柔らかい浦上先生のわかりやすい講話を期待した方々も多くあったとみえ、今回は大変多くの方から視聴お申込みをいただきました。

 まず予防について、公衆衛生学用語でもある第1次予防(発症予防)、第2次予防(早期発見・早期治療)、第3次予防(進行防止)という広義の概念を示されました。そして、認知症を特別なものと捉えず、その概念を他の病気と同様に当てはめねばならないとされました。
 日本では2025年に65歳以上の高齢者の5人に1人が認知症を発症するという推計や、十数億円を越える社会的負担を勘案するとともに、2019年の認知症施策推進大綱でも「共生」と「予防」が2本柱として据えられていることから、予防の重要性を強調なさいました。
 また、同じ頃にWHOが認知症と認知機能低下のリスク軽減のためのガイドラインを発表するなど、認知症発症者増加は世界的な課題でもあると添えられ、予防対策は待ったなしであると述べられました。

世界の認知症情勢

 また、医学誌『ランセット』に掲載された認知症に関する総説論文においてまとめられた「認知症発症の危険因子」について、2017年に全危険因子の35%であった修正可能な危険因子が、2020年には40%になるなど、予防に関連する研究が進んできており、予防不可能といわれてきた時代を振りかえられるとともに、将来的には修正可能な危険因子の割合が増える可能性についても言及されました。
 さらに、重要なのは発症の危険因子が年代によって異なっているため、年代ごとに危険因子相応の対策を講じることが必要であること、またコミュニケーション不足もつながる難聴は、中年期における危険因子として上位にあるため、補聴器着用など早めの対応が必要であることを、示唆されました。


認知症発症危険因子(『ランセット(2020年)』より)

 次いで、鳥取県と日本財団との共同プロジェクトで、鳥取大学・伯耆町・鳥取県が連携し、浦上先生を中心に開発した認知症予防プログラム:「とっとり方式認知症予防プログラム」の内容を説明され、介入調査の結果行認知症の発症や進行を遅らせることができると証明された解析結果を示されました。このプログラムは、県内の(民間を含めると)全地域に普及するばかりか、全国各地からの問い合わせに対しては無償で情報やツールを提供しているとのことでした。

とっとり方式認知症予防ログラム

 その後、浦上先生が理事長を務められている設立後10年経った日本認知症予防学会の紹介として
(1) エビデンスの創出と普及
(2) 人材育成
(3) 地域連携の実現
の3つの目標を目指して、多職種の2500名近い方々が認知症予防の普及・啓発の活動をしていること、当学会が6月14日のアルツハイマー博士の生誕の日を「認知症予防の日」として制定したことも述べられました。

認知症予防学会の活動

 最後に当日の講話の参考書として、本年3月に出版された浦上先生の高著「科学的に正しい認知症予防講義」のご紹介があり、終話となりました。

浦上哲也先生の近著『科学的に正しい認知症予防講義』

 次いで大武代表理事・所長が「認知症予防手法を研究する方法」と題して、基調講演を行いました。
 最初に、モノづくりの設計プロセスの概略を説明した後、医学系ではない、情報学・工学の研究者として、作ったモノを人々が使うことを通じて、社会がどうなるかから逆算してモノづくりをしたいという思いがあることについて述べました。そして認知症発症者の増加という社会的課題に貢献するべく、認知症予防効果が期待できるモノやコトを研究することを通じて、「人や社会に与える効果から逆算しモノやコトを設計する」効果設計手法を開発したいと考えて、研究を行っていることを、具体例を挙げながら説明を進めました。

機械設計から効果設計へ

 まず、認知症予防とは、感染症予防上の、うがい、マスク、手洗いのようなセルフケアに相当するようなもので、認知症になりにくい状態や生活習慣である人は、その生活習慣を保つこと、認知症になりやすい状態や生活習慣の場合、その状態や生活習慣をかえるのを助けるのが認知症予防の手法であるという基本的な考え方を整理しました。そしてそれらは、食事・運動・知的行動・社会的交流いった生活習慣全般にわたるものであると説きました。

 その研究が次の3ステップを経て行われていることを述べ、浦上先生の「とっとり方式認知症予防プログラム」を例に挙げて解説しました。
STEP1:メカニズムと観察研究・介入研究に基づく目標とする行動の定義
STEP2:目標とする行動ができるよう助けるプログラムの考案
STEP3:プログラムを実施し、参加者に与える効果検証

 そして、STEP2の、目標とする行動をできるように助けるプログラムとしてー加齢に伴い低下しやすい3認知機能(体験記憶・注意分割・計画実行機能)の活用効果が期待でき、社会的交流がはかれる会話支援手法:「共想法」―写真を用いてテーマ、時間、順序を設定し、会話を行うものーに立脚した認知症予防プログラムPICMOR(ピックモア)を考案したと説明しました。PICMORは、ロボットが司会する写真を用いた会話による介入プログラムの英語表現(Photo-Integrated Conversation Moderated by Robots)を略したもので、ピックアップモア(インフォーメーション)、情報をもっと拾い上げよう、という意味をかけています。
 
 PICMORプログラムのランダム化対照群付き比較試験を行った結果、プログラム参加者の言語流暢性が向上することがわかり、脳のMRI解析でも言語流暢性(言葉を取り出す能力)に関わる領域間の結合が強かったという結果を得ることに至り、効果検証のステップの緒に着いたと研究を位置づけました。




PICMORプログラムにおける会話手順とその検証結果


 そして今後も、さらに理化学研究所やほのぼの研究所にてさらなる効果検証のための応用・基礎研究と、それらを可能にする基礎技術の開発、実施可能なプログラム開発、実施体制の構築を目指すと展望を述べて、結びました。

 10分間の休憩を挟んで、鳥取の浦上先生と東京の大武所長との「科学的に認知症予防を考える」と題した対談は、チャットで受け付けた参加者からの質問に対しての回答からスタートしました。


 浦上先生の画面背景に見えたハーブティ、アロマテラピーに関しての質問には、認知機能低下、特にアルツハイマー病発症者に効果があると浦上先生が検証なさった、日中と夜とに使用するとよいとされている浦上式アロマテラピーで使用する精油名を教えて下さいました。また、認知症発症リスク要因である難聴傾向の親族へのアドバイスとして、着用の時期が大事であると回答されました。また年代によって筋力低下にもつながりうる有酸素運動を行う長さについて、筋力運動との兼ね合いや、年齢、体力、筋力、骨量等を見極めて、バランスよく行うのがベストあると教えて下さいました。
 また、コロナ禍でとっとり方式認知症予防プログラムを中断せざるを得ない期間があっても、実践者のサポートを得ながら、モチベーションを保って在宅でプログラムを継続した方々には認知機能低下が見られなかったという新しい情報も伺うことできました。
 
 何よりこの対談の大きな実りは、10年前に勇気をもって日本認知症予防学会を設立なさるなど、長年にわたり、認知症予防の研究に邁進されてきた浦上先生の深い思いを伺うことができたということです。
 「医師として、病気を治すための治療は勿論大事なこと。それと同時に、病気にならないようにしたいという思いは全ての病気に共通すること。認知症を特別扱いせずに病気として予防していくのは決して誤ったことではないと思っています。いまだに認知症に関する根強い偏見が残存していること、また玉石混交の誤った情報や商品が氾濫していることなどから、認知症予防に否定的な意見があるとも思われます。だからこそ、科学的にしっかり検証されたエビデンスのある認知症予防方法を啓蒙・普及していくことが必要であり、研究者としての責務であると考えています。」と穏やかな口調で力強く訴えられました。

  事後のWEBアンケートには、9割近い方々から回答をいただきました。講演内容や今後の参加意向について、好評価をいただきましたことに安堵し、皆様のご視聴に心より感謝申し上げます。自由回答の中には「治療・予防研究の情熱や倫理的な姿勢から垣間見える、両講師のお人柄も感銘を受けた」というお声、さらに詳細、かつ多方面にわたる認知症予防情報や認知症予防活動の現場の声も知りたい等、参考になる前向きなご要望も多くいただきました。
 今後もしばらくはオンラインでの講演会や企画が続くと思います。頂いた貴重なお声やアドバイスに添える、よりよいものにしていきたいと思っております。
 
  なお、講演会当日、コロナ禍前まで継続コースの参加者にお集まりいただいていた柏市介護予防センター ほのぼのプラザますおのものしり館にて、初めて講演会ライブオンライン視聴会も開催しました、コロナ禍がしばらく収まっていることもあり、人数制限はあるも、講演会を端末でご視聴いただくのに不慣れな方々等にお声掛けをしたところ、新規参加者を含む7名のメンバーにお集まりいただくことができました。久方ぶりのメンバーの再会とご一緒に視聴が叶ったことを喜んでいただき、それぞれ自宅で視聴していた私共も、役立つ情報・知見をリアルタイムで共有できて、嬉しいことでした。今後適宜工夫を重ね、交流の輪を絶やすことのない活動を続けていきたいと思っております。

ほのぼのプラザますおでの講演会ライブオンライン視聴会

 当講演会の模様は以下YouTubeにてご覧いただけます。
NPO法人ほのぼの研究所YouTubeチャンネル

 また、認知症予防プログラムPICMORの効果検証論文、認知症予防プログラムPICMOR介入後の脳の安静時機能的結合に関する論文、コロナ禍におけるとっとり方式認知症予防プログラム参加者の認知機能に関する論文は、いずれも、オンラインでご覧になれます。

認知症予防プログラムPICMORの効果検証論文
認知症予防プログラムPICMOR介入後の脳の安静時機能的結合に関する論文
コロナ禍におけるとっとり方式認知症予防プログラム参加者の認知機能に関する論文

 市民研究員 鈴木 晃・長久 秀子

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