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招待講演「生涯健康脳」、基調講演「共想法形式の会話が認知機能と脳に与える影響」、対談「人とのつながりで、脳を育む」、そして今回初めての企画オンライン交流会を加えての4部形式としました。
設立記念オンライン講演会タイトル
ほのぼの研究所代表理事・所長の開会の挨拶に続き、早速招待講演講師の東北医学スマート・エイジング学際重点研究センター 副センター長、東北大学加齢医学研究所教授の瀧靖之先生に、仙台市からご登壇いただきました。
瀧 靖之先生
瀧先生は東北大学加齢医学研究所及び東北メディカル・メガバンク機構で脳の MRI画像を用いたデータベースを作成し、読影や解析をした脳MRIは、これまでにのべ約16万人に上り、脳の発達や加齢のメカニズムを明らかにする研究者としてご活躍です。
「脳の発達と加齢に関する脳画像研究」「睡眠と海馬の関係に関する研究」「肥満と脳萎縮の関係に関する研究」など多くの論文を発表。著書は、「生涯健康脳(ソレイユ出版)」「賢い子に育てる究極のコツ(文響社)」「回想脳(青春出版社)」「脳医学の先生、頭が良くなる科学的な方法を教えて下さい」(日経BP)」始め多数、特に「生涯健康脳」「賢い子に育てる究極のコツ」は共に10万部を突破するベストセラーとなり、海外でも複数カ国語で翻訳本が出版されています 。また、テレビ東京「主治医が見つかる診療所」、NHK「NHKスペシャル」、NHK「あさイチ」、TBS「駆け込みドクター!」など、メディア出演も多数おありです。
招待講演「生涯健康脳」
招待講演「生涯健康脳」は、投影資料を使用されず、大武所長が瀧先生に以下3つの質問を投げかけ、それに瀧先生が答えられるというQ&A方式で進められました。
Q1)脳は加齢によってどのように変化するのでしょう?
―A1)私達の日常生活を司る機能を持つ脳の体積は10代後半にピークに達し、それから萎縮が始まります。
また、判断する、記憶する、考えるといった高次認知機能は、機能の種類によって若干異なりますが、凡そ 20代後半をピークにゆっくりと衰え始めます。知識の獲得は、もっと遅くまで保たれ、それからゆっくりと落ちて行きます。
Q2)脳の加齢を早めるものには何がありますか?
―A2)生活習慣病の危険因子である:飲酒・喫煙・肥満(特に内臓脂肪型)…慢性炎症を招くものと、鬱等の心的不健康が挙げられます。
Q3脳を健康に保つには、どのような生活習慣が大切でしょうか?
―A3)下記の6つが考えられます。
脳を健康に保つための6つの要件
以上のように、理解しやすいように、具体的に丁寧に説明して下さいましたので、事後アンケートでは、日常生活に直結する講話だったので、役だったというお声を多くいただきました。
次いで、大武美保子代表理事・所長が東京、日本橋にある理化学研究所から「共想法形式の会話が認知機能と脳に与える影響」と題して、彼女が考案した会話支援手法「共想法」の説明を行うとともに、共想法を組み込んだ認知的介入プログラム(PICMOR)を用いてランダム化比較試験を実施して得られた研究結果を述べました。
基調講演「共想法形式の会話が認知機能と脳に与える影響」
まず、瀧先生が脳を健康に保つための6要件として挙げられた、運動、食生活、睡眠、コミュニケーション、趣味・好奇心、主観的幸福感のうち、特にコミュニケーションに着目したこと。さらに、社会的コミュニケーションの多寡などとは別に、認知機能の維持に役立つコミュニケーションの特徴、条件を考え、それらを満たすコミュニケーションができる方法について、研究していることを述べました。
会話(コミュニケーション)をする場合、相手の話をよく聴き、声の調子を読み取り、思いやり、注意を払い、理解することをで、加齢とともにとともに萎縮しやすいという前頭葉を使うため、脳を健康に保つための要件のひとつととらえられていますが、単なるおしゃべりではそれらが充足されていないこともあるとして、写真を通して想いを共有できる会話支援手法:「共想法」を考案。「共想法」は一連の作業通して「体験記憶」、「注意分割機能」、「計画力」を総合的に使うことで前頭葉をフル活用するコミュニケーションを確実に行うことをめざしたものだと説明しました。
PICMOR
さらに、その効果を検証するプログラムとして、AIロボットが司会をする共想法を組み込んだ認知的介入プログラムPICMOR(Photo Integrated Conversation Moderated by Robot)を開発。それを用いた、ランダム化比較試験(共想法参加者 対 雑談参加者)から導かれた共想法形式の会話が認知機能と脳に与える影響を以下のように発表しました。
【認知機能に与える影響】
・共想法形式の会話参加者は、雑談に参加した場合と比べて、言語流暢性(言葉を取り出す認知機能)が向上
【脳に与える影響】
・共想法形式の会話参加者は、言語流動性の部位とその他の部位との結合が強くなっている…言葉の意味をよく理解したり、言葉を使って考えを伝えたりすることで、領域間のつながりがよくなる
・共想法形式の会話参加者は、局所(実行機能や記憶に関わる)部位の体積が、参加修了後、雑談参加者と比べて大きかった
・共想法形式の会話参加者は、白色繊維連絡(領域間のつながり)がよい…脳の信号が他の領域に伝わりやすい
最後に、ほのぼの研究所においては「共想法」を通して脳の健康を維持する生活習慣獲得に関する中長期的な観点での研究、理化学研究所では、脳の健康につながるより科学的、厳密な条件を統制したコミュニケーション方法についてのを研究を行っていく抱負を述べ終話しました。
対談「人とのつながりで、脳を育む」
休憩を挟んでの瀧先生と大武所長との対談では、まず、東北大学スマート・エイジング学際重点研究センターについては、アンチ・エイジングという名称は加齢を否定することに繋がるので使うことはせず、脳には可塑性があるので、賢く、豊かに、スマートに歳を重ねていくために、基礎研究から臨床研究に至るまで様々な分野、産学連携、社会実装を通じて研究、特に、認知症予防に注力なさっている機関として紹介されました。
ファッションや身なりを整えることは、楽しく人生を変えていくために気持ちを動かす力が大きい、すなわち行動変容のきっかけになり得るとして、コミュニケーションを向上させたり、自信や外出等の積極的行動を喚起させることが、脳を元気に保つのに大切だと説かれ、ご自身も大変気を遣われていると述べられました。
「回想について」は、御著『回想脳』で「幸福の自家発電」と述べられているように、ストレスを解消し、過去の回想により主観的幸福感を得られる共に、単に後ろ向きの行動ではなく、その時に関わっている脳の様々な領域が将来のプランニングの時にも関わっていいる大事な領域なので、未来に向かっのポジティブな生きる力をつけるとも説明されました。
また、子育てに関しても、知的好奇心を認知症予防にも通じる「人生の大きなドライブ」として大事であると述べられ、それを高めるためには親も知的好奇心をもって積極的に生活していることを示しながら、対象への単純接触効果を高めることが大切だと説かれました。わずか20分間の対談ではありましたが、果たしてに各世代へのスマートな生き方へのアドバイスをいただいたことになりました。
最後の、今回初企画のオンライン(お茶会兼)交流会は、システム上、ご参加のためにリンク先を変更していただくお手間をかけることとなりましたが、飛び入りも含めて、関東圏はもとより、大阪府、長野県を含めた広いエリアから、また理化学研究所の海外からの研究者を含めた若い世代〜80歳代の多世代、様々な分野の方々に多数ご参加いただきました。
参加者全員が、氏名、好きなモノ・コト等を語る自己紹介を手際よく行った後、視聴者が瀧先生がドラムを始められた理由と不眠について、大武チームの脳科学の研究者が脳を健康に保つために行う趣味(運動)をする場合、認知的に負荷の少ないことをする場合の効果についての質問がありました。
多趣味の瀧先生のご自身のご経験も踏まえて、趣味はヴィゴツキーの最近接理論や能動的なものが望ましいことは真理であるが、趣味を持てることの意義やそれから派生するコミュニケ―ションや主観的幸福感等にも意義があるとご回答。不眠についてのアドバイスもいただいたところで終了時刻が迫り、2回に分けて集合写真を撮影して、皆様と画面からお別れとなりました。
初の交流会については、まだ課題もありますが、これまでの視聴だけとは異なり、双方向で講師と参加者が交流できたことを楽しんで下さったお声が多くあり、安堵しております。いただいたご意見やアドバイスを今後に充分に活かしていきたいと存じます。
そして、何より研究をはじめ様々な分野で超ご多忙、かつ多趣味の瀧先生には、きっと休憩時間には寸暇を惜しんで筋トレをしていらっしゃったのではないかと想像しつつ、この度の講演会に貴重なお時間とご講話をいただいたことを、心より感謝申し上げます。
脳を元気に保つためにすべきことは、決してたやすいことばかりではありません。けれども、ハードルを低く設定してみる、壁を取り払うとできる、やっていく・やってみると意外にできるようになるという、瀧先生から伺った脳の可塑性と信じて、改めて「やってみよう!」「やらなければ!」と元気・やる気・勇気をいただいた方も少なくないと信じております。
市民研究員 長久 秀子
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なお、当講演会の動画は以下URLにてご覧いただけます。
【人とのつながりで脳を育む】生涯健康脳 瀧 靖之
https://www.youtube.com/watch?v=RwBICMPk4QQ
【人とのつながりで脳を育む】共想法形式の会話が認知機能と脳に与える影響 大武
美保子
https://www.youtube.com/watch?v=0bGcLhiSbho
【人とのつながりで脳を育む】対談−瀧 靖之×大武 美保子
https://www.youtube.com/watch?v=dSnqCmaQTEE
また、以下でこれまでの講演会の動画もご視聴いただけます。
https://www.youtube.com/channel/UCz7L-TE_oqgoLORFqNoIoZA/playlists
招待講演
【人とのつながりで脳を育む】生涯健康脳 瀧 靖之
基調講演
【人とのつながりで脳を育む】共想法形式の会話が認知機能と脳に与える影響 大武 美保子
両講師の対談
【人とのつながりで脳を育む】対談−瀧 靖之×大武 美保子
また、改めて共想法の基本概念を述べ、コロナ禍に於いて取り入れた新しい活動方式における活動の進捗概要を説明しました。
合同研修参加者
大武代表理事・所長を筆頭に、連携先のNPO法人コミュニティ活性化応援団(STeLa)2名、国立国語研究所2名の初お目見えに加えて、協働事業者(埼玉県の認定NPO法人きらりびとみやしろ、茨城県の介護老人保健施設マカベシルバートピア、大阪府の有限会社野花ヘルスプロモート)、お江戸共想法の参加者、継続コース参加者、理化学研究所の関係者、そして市民研究員の約30名が、延べ5時間、知見の共有や討議をいたしました。
長引くコロナ禍の中、オンラインでの開催もはや3回目となりましたので、ほとんどのグル―プが発表持ち時間の10分+質疑応答5分を遵守し、時宜を得た鈴木晃市民研究員の司会により、お昼休みを含めた5時間のプログラムは全く遅滞することなくスムーズに進行しました。
それぞれの発表報告の概要を順にご紹介いたします。※氏名後(S)は発表(言)者
【お江戸共想法】
お江戸共想法 山藤千賀子・齋藤千鶴子・竹田邦彦・竹田加江子(S)
2020年6月のコロナ禍の中始まった、遠隔共想法の進捗状況が述べられました。柏市の拠点よりも参加人数が少ないなりの工夫や苦労も多かったようですが、東京から地方(長野県)へ転居しても遠隔でも参加できるというメリットを活用しているご夫婦での参加者、コロナ感染下、参加を中断するも、熱心な仲間の勧めで戻ってきたメンバー等の登場やコメント活用と、遠隔共想法参加者らしいハイブリッドな発表から、理研のテクニカルスタッフの熱意と強い後押しで、和気あいあいと参加できる遠隔共想法が軌道に乗ってきた様子を伺い知ることができました。お江戸共想法報告
【NPO法人コミュニティ活性化応援団(STeLA)について】
NPO法人コミュニティ活性化応援団(略称STeLA)代表 杉山 喜宏(S)
2021年度に当所と相互に賛助会員となり連携を結んだSTeLAは、2020年末に様々な活動を通して高齢者のためのコミュニティを幅広く支援すること目的に設立された団体です。高齢者の健康維持や現役世代の社会参加に向けての活動に貢献するべく、活動なさっており、現在準備中のHPを示しながら、活動システムの説明がありました。活動事例としてはコロナ禍でも重点的に各所で展開されている高齢者のためのオンライン体操を挙げられ、これまで担当者との遠隔共想法の体験参加や情報共有を始めた共想法ついてもHPを通しての紹介にご尽力下さると述べられました。メンバーの多くがコーディネーターご出身ということで、共想法の周知、ほのぼの研究所の活性化ためお力添えいただけることを確信し、心強く思いました。
STeLAの活動紹介
【協働事業者 マカべシルバートピア】
市民研究員・マカベ―シルバートピア 市民研究員 永田映子(S)
2011年のスタートから10年、17期を迎えた介護老人保健施設における通所者、入所者が参加なさる共想法やお話の会の実施者として、コロナ感染下の厳しい環境での実施状況をつぶさな報告がありました。想像を超えるほど厳しく自身の生活面でも制限を設けざるを得ない中、感染状況による規制にタイムリーかつきめ細かく応じて参加方法の工夫、参加者対応を行い、2021年度はほぼ予定通り、実践をこなしたという報告に、感服させられました。また、コロナ禍では、大変案じられる高齢者の認知機能の低下も、それらの努力の結果が反映され、低下した方が大変わずかだという報告に安堵しました。一方、コロナ感染が全国的には高止まり傾向であるも、茨城県内では減少率が低いため、施設内での感染対策がさらに厳しくなり、共想法実施可否が常に気になるという心の内を伺い、施設での継続的実施の課題も浮き彫りにされました。
【協働事業者 有限会社野花ヘルスプロモート のばな共想法】
野花ヘルスプロモート 正木慎三(S)
初めて参加者にも理解していただけるようにと、施設の所在地岸和田市、だんぢりや野花ヘルスプロモートの事業説明から始まりました。また、共想法に出会った経緯やその後の野花での介護サービス・メンタルヘルスサービス・従業員間での共想法の実施履歴が続きました。コロナ禍もあり、2021年度の共想法の実施はありませんでしたが、その間には要介護になる前の予防サービス事業の(通所)サービス樹立を目指し、共想法を、要支援認定を受けた方、また事業対象者を対象とした認知症発症予防サービスとして実施できないかについて大武先生等と協議を重ねられていました。そして当該サービスに関する潜在ニーズの調査を、想定した対象者、サービス提供者、ケアマネージャ、行政等に向けて行うこととなった経緯を説明しました。
マカベシルバートピアでの共想法開催時注意点(左)
野花の認知症発症予防サービス事業検討オンライン会議(右)両所発表資料より
【ほのぼの研究所 継続コース】
市民研究員田口良江(S)・根岸勝壽(S)
コロナ禍に於いて、活動拠点のほのぼのプラザますおでの参集も制限されるに従い、当該施設での共想法の継続コース参加者の多くは、何度かのトレーニングを経てスマホを使っての遠隔共想法参加に移行ができました。ただし、そうした端末操作に不慣れだったり、家庭・健康上の理由で参集も叶わなくなってしまった3名(平均年齢85歳、最高齢96歳)に対して、電話や郵便物を通して安否確認を兼ねて話し相手なると同時に、ほのぼの研究所の活動等の報告を行い、集合せずとも個々の事情にあった方法で共想法をしていただり、オンライン講演会ライブ視聴会に参加いただくなど、アフターコロナの折に、スムーズに復帰していただけるためのパイプ役を地道に続けている報告がありました。高齢者同士意思が通じ合うことも多かったと思いますが、担当者の心の通った傾聴・共感の姿勢、要した時間、そして丁寧な対応や継続するための根気や気力を想像するに、市民研究員仲間としても感謝の念を禁じ得ないことでした。
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【ほのぼの研究所 柏市認知症予防講座】
市民研究員 松村光輝・魚谷茜(S)
コロナ禍で開講が危ぶまれるも、予定通り10月〜11月の3日間開講できた、2016年以来6年目となった柏市認知症予防講座の実施報告がありました。昨年度の「3日間コース」の講座は、感染対策による厳しい人数制限等もあり、多数のご応募にお応えできず、参加者にはややお馴染みの薄いZOOMシステムも活用したハイブリッドな講座でした。今年度はより多くの方にご理解を深めていただけるよう、会場にて講師の大武所長が対面講座を行う「1日コース」(同じ内容の講座を3回開講)企画とし、延べ18名にご参加いただけた模様を述べました。そしてこの6年間の応募・参加状況(後期高齢者層が増加傾向)、参加動機、感想等の時系列変化から導かれた結果と実施者の感想として、認知症予防への関心への確実に高まっていること、参加者に後期高齢者が増加したこと、高齢者へのスマホ普及も影響して、メールで共想法に使う話題の写真を送れる受講者が増えてきたこと等を挙げました。また、受講生の一部の興味を持っていただいた方々が「1日コース」とは別枠で開催した「遠隔共想法」の説明・体験会にご参加、そのうちの3名が継続コースへのご参加につながるというほのぼの研究所にとって嬉しい報告で説明を結びました。
継続コース(左)柏市認知症予防講座(右)
【ほのぼの研究所 継続コース遠隔共想法】
市民研究員 魚谷茜(S)
2021年度は、コロナ禍で集合式共想法の実施が叶わなくなったことから、2019年度末から着手した遠隔共想法の端末アプリを、当事者(高齢者)目線でより使いやすいものにするための改善を目指して、参加と実践に励んだ濃密な進捗の詳細説明がなされました。思い起こせば、今では笑い話になるほど、スマホの基本的用語、扱い方への知識や能力にバラつきがある中、暗中模索のスタートでした。
しかしながら、理化学研究所テクニカルスタッフの方々のわかりやすさへの工夫満載、やる気を大いに喚起させるパワフルで「超」根気強いサポートとで、(共想法をするのなら、集合型と同様に)「参加者の顔を見て参加したい」というニーズを具現化する機能を、幾つかの不具合の解消→バージョンアップを重ねて、どうやら使いやすいようにできるまでのプロセスをこの発表で確認することができました。また同時に、市民研究員を適宜、懇切丁寧にリードしてくれた担当者である発表者の尽力にも改めて感謝したことでした。
【ほのぼの研究所 講演会】
市民研究員 鈴木晃・長久秀子(S)
コロナ禍のため、恒例の2つの講演会をオンラインでの開催へと転換しての2年目の実態を事後アンケート結果を交えて述べました。理研の西道隆臣先生をお迎えした設立記念講演会では、両講師の「アルツハイマー病がない世界」と「防ぎうる認知症にならない社会」の実現に向けた真摯な姿勢と貴重な知見を共有。クリスマス講演会では、認知症予防に関する根強い偏見や、玉石混交の誤った情報や商品の氾濫を背景に認知症予防への否定的意見があるも、科学的にしっかり検証されたエビデンスのある認知症予防方法を啓蒙、普及していくことが必要であり、研究者の責務であると述べられた、鳥取大学の浦上克哉先生の思いや、両講師の認知症予防研究取り組みへの契機やご苦労を伺い、敬服しました。
集客ツールにSMS追加、口コミの積極的活用、初のオンライン講演会ライブ視聴会開催などは、新規参加者獲得や呼び戻しに奏功しましたが、時勢の流れで急増中のオンライン企画ヘビーユーザーの質の高いニーズに応えるには「役立つ情報を提供している」という高評価ポイントの維持のためにも、臨場感の演出を含めた運営スキルアップと、そのための十分な準備期間の確保を課題と総括しました。
ほのぼの研究所継続コース遠隔共想法(左)と講演会開催履歴(資料より)(右)
【企業連携等】
理化学研究所認知機能支援技術チーム技術経営顧問 小暮 純生(S)
ランチタイム休憩後の午後の部は、理化学研究所の小暮先生の活動報告からスタート。多くの企業、研究機関等との連携についての進捗状況の報告がありました。そのうちのひとつ、マスコミ等で取り上げられることも多い、WプロジェクトとのNDA締結後の会議で共想法が認知症予防だけでなく、よりよい人間の幸福度well-beingにつながるということを発表されたという報告を興味深く伺いました。また、連携の際の基盤となる知的財産としての様々な共想法関連の全ての特許が成立していること、また共想法司会ロボットぼのちゃんの意匠登録、共想法、ほのぼの研究所の商標登録の更改が済んでいるという報告もありました。
ほのぼの研究所の知的財産 (資料より)
【国立国語研究所紹介 ことばを記録・保存する】
国立国語研究所教授 小磯花絵 (S)
ゲストとして国立国語研究所の田中研究員と共にご参加いただいた、小磯花絵教授から同所のご紹介をしていただきました。2018年から「共想法による談話の研究」において、大武所長と共に研究をはじめられたご縁とのことでした。国語研究所が戦後まもなく設立された経緯や目的、「言語生活」をキーワードに生活の中で用いられる言葉の姿や働きを調べるという研究活動についての収集された様々な時や場面の音声データも交えてのご説明を、参加者の多くが大変興味深く伺いました。また今後音源「昭和話し言葉コーパス」「日常会話コーパス」として整備、公開されることを伺い、昨今の様々な言葉の乱れや変化が気がかりな昭和生まれとして、期待を抱きました。共想法に対して言語学的な研究が進んでいるのは承知しておりますが、小磯先生との研究で、共想法の会話について、どのようなことが導き出されているのでしょうか。また講話後に、昨今進んでいるオンライン、非対面で(相手の視覚情報のない場合)の会話時の戸惑いに関して質疑が出されましたが、集合型で行う共想法と遠隔共想法の会話間に何か格別差異のある研究結果が出てくるのでしょうか?私どもも参加・実践者の立場としても意識するとともに、共想法の会話が何か研究に役立つことがあれば嬉しいことです。
国語研究所「言葉を記録・保存する」資料
「理研による実施支援」(含・きらりびとみやしろ)
理化学研究所 テクニカルスタッフ 岩田幸子(S)
きらびとみやしろ 市民研究員 野口宗昭(S)
また、ほのぼの研究所やお江戸共想法メンバーに対して行った、積極的参加に繋げるための、当然の規律の徹底、共想法に関する学び直しやポイント学習、情報共有を行う「共想法学習会」を定期的実施や、市民研究員に対する研究材料としての画像トリミング学習会、市民研究員のきらりびとのメンバーとのほのバリュー(共想法の200要旨)入力の相互学習による支援が予定として挙げられました。
そして、「共想法は楽しい!」をモットーに今後も支援を続けて下さるという頼もしく熱いメッセージに、いつも通りパワーをいただきました。
理研による実施支援
この後、岩田さんの司会でオンラインお茶会を兼ねて、参加者全員が一言ずつでも話す機会を持つく、質疑応答や感想を交わす時間を設けました。最初に投げかけられた「困っていること」として多く挙げられた「加齢に伴い共想法に使うスマホの扱いやアプリヴァージョンアップへの対応等、新しいことを憶えるのに難儀している」という発言に対しては共感が多く、ご同輩の存在に却って安心したり、それでも頑張ってる、頑張ろうと思っているという声や岩田さんの励ましに、背中を押されたように感じました。また意味が理解しにくかったり、マニュアル作成上日本語として表現するのが難しICT関連のカタカナ専門用語に関して、国語研究所の田中様から専門家としての貴重な見解をいただいたり、ロボットとの会話に関してのタイミングに関する問いかけに対しては、司会ロボットぼのちゃんと評価協力をした声掛けロボットの仕様規格の差異があることを教えていただいたりと、大阪府、長野県、東京都、千葉県、埼玉県、茨城県の参加者が硬軟取り混ぜた話題や知見を、画面を通して和やかに共有する時間を過ごしました。
【2020年度まとめ・2021年度方針】
ほのぼの研究所 代表理事・所長 大武美保子
コロナ1年目の2020年度には「新型コロナウィルス流行により、薬やワクチンが確立するまで、集まって行動することができないこと」を前提に「目的に即して新しいやり方を考えて実践する」という目標を目指して活動、2年目の2021年度は「新しいやり方の実践の輪を広げる」という目標のもと、ワクチン接種が進んでも、現段階で根本的な治療薬がないことから、集合しての活動を慎重に行うことを前提として、遠隔共想法基盤とするサービスを外部に展開できるよう、1)遠隔共想法の参加者から実施者になる
2)連携先の遠隔共想法活用の支援を行う
ことを行ってきたと述べ、主に午前中に報告があった2021年度の具体的活動を、ほのぼの研究所の実施、普及、支援、育成、研究の5つの柱にあてはめて説明しました。
また、共想法を種(シーズ)とした時に、どのように展開するかを、2007年から5年ごとに設定した共想法研究の中期計画のテーマと、それに即して実行してきた活動を述べました。そして、次期:2022年度は、【鹸2022年―試験農園を各地、各国に、農園(営利事業)の立ち上げを支援】元年にあたるとして、その方針のもとに計画が呈示されました。
ほのぼの研究所の事業の柱と2021年度総括・2022年度方針
振り返ると、「コロナ」というワードやそれに類する表現がこんなにも多く出てきたことは合同研修がオンラインになってからありませんでした。約30名の参加者のうちにも、当日も濃厚接触とされた家族が発熱が続き、検査を受けたら感染が確定した、家族全員家庭内感染で自身が今も自宅で療養中という2人を含めて、家族や職場の人たちの感染を経験、また疑いを含めて濃厚接触者となった経験がある人も何人もいて、感染拡大が3年目になり、蔓延防止重点措置が解除される時期に、感染をいまだに身近に感ぜざるを得ないとを残念に思いました。
幸いにも当所では、早々に新しい活動様式を取り入れ、様々な苦労、困難や不便は感じながらも、変わらずに交流が続けられるような遠隔共想法やオンライン会合のテクニックをマスターできたというメリットもあったと前向きに捉えたいと思います。
事後のアンケートでは、「外部の参加者の発表を伺えて貴重な験だった」「他拠点・事業の活動が参考になった」「居ながらにして未知の方々とお会いでき、意見交換できてよかった」「和やかな雰囲気でよかった」等の声が寄せられました。
集合が叶い、参加者の表情や場の空気を直に感じながら、タイミングよい会話を交わすことのできる日が遠からず来ることを期待しつつ、それまでは、遠隔共想法を通して認知機能維持に役立つ会話の練習に励みたいと思います。
市民研究員 長久秀子
動画をクリックすると再生が始まります。大きい画面でご覧になりたい方は、その後右下に表示されるYouTubeという文字をクリックすると、YouTubeのページが開きます。YouTubeのページからは、全画面表示が可能です。
招待講演
【科学的に認知症予防を考える】科学的に正しい認知症予防の普及・啓発に向けて 浦上 克哉
基調講演
【科学的に認知症予防を考える】認知症予防手法を研究する方法 大武 美保子
両講師の対談
【科学的に認知症予防を考える】対談−浦上克哉×大武美保子
今講演会は、「科学的に認知症予防を考える」と題して、日本認知症予防学会理事長を務められている、「認知症診断・予防の第一人者」である鳥取大学医学部教授の浦上克哉先生を招待講演講師としてお迎えし、「招待講演」「基調講演」「両講師の対談」の三部形式としました。
クリスマスオンライン講演会タイトル画像
大武美保子弊所代表理事・所長の開会挨拶に続き、米子市の鳥取大学医学部の研究室より、ほのぼの研究所クリスマス講演会恒例のクリスマスコスチュームをご着用いただいた浦上克哉先生にご登壇いただき、「科学的に正しい認知症予防の普及・啓発に向けて」と題した講話が始まりました。
招待講演講師 浦上克哉先生
浦上先生は1983年に鳥取大学医学科を卒業。同大大学院の博士課程を修了し、1990年より同大の脳神経内科にて勤務後、同大の保健学科生体制御学講座環境保健学分野、並びに同大の医用検査学分野病態解析学の教授を併任されています。2011年に日本認知症予防学会を設立以来理事長の要職に就かれています。
日本老年精神医学理事、日本老年学会理事、日本認知症予防学会専門医であり、アルツハイマー型認知症及び関連疾患を専門とし、診断マーカーの開発研究、外来での診察と治療、予防、ケアなど総合的に認知症研究に取り組んでいらっしゃいます。また、認知症早期発見のためのタッチパネル式コンピューター「物忘れ相談プログラム」などの機器の開発、アロマによる認知症の予防効果の研究、NHK「あさいち」「チョイス」「きょうの健康」、「たけしの家庭の医学」、「主治医が見つかる診療所」等テレビにも多数出演し、幅広く精力的に啓発活動を行っていらっしゃいます。
TVなどへのご登場時の、物腰の柔らかい浦上先生のわかりやすい講話を期待した方々も多くあったとみえ、今回は大変多くの方から視聴お申込みをいただきました。
まず予防について、公衆衛生学用語でもある第1次予防(発症予防)、第2次予防(早期発見・早期治療)、第3次予防(進行防止)という広義の概念を示されました。そして、認知症を特別なものと捉えず、その概念を他の病気と同様に当てはめねばならないとされました。
日本では2025年に65歳以上の高齢者の5人に1人が認知症を発症するという推計や、十数億円を越える社会的負担を勘案するとともに、2019年の認知症施策推進大綱でも「共生」と「予防」が2本柱として据えられていることから、予防の重要性を強調なさいました。
また、同じ頃にWHOが認知症と認知機能低下のリスク軽減のためのガイドラインを発表するなど、認知症発症者増加は世界的な課題でもあると添えられ、予防対策は待ったなしであると述べられました。
世界の認知症情勢
また、医学誌『ランセット』に掲載された認知症に関する総説論文においてまとめられた「認知症発症の危険因子」について、2017年に全危険因子の35%であった修正可能な危険因子が、2020年には40%になるなど、予防に関連する研究が進んできており、予防不可能といわれてきた時代を振りかえられるとともに、将来的には修正可能な危険因子の割合が増える可能性についても言及されました。
さらに、重要なのは発症の危険因子が年代によって異なっているため、年代ごとに危険因子相応の対策を講じることが必要であること、またコミュニケーション不足もつながる難聴は、中年期における危険因子として上位にあるため、補聴器着用など早めの対応が必要であることを、示唆されました。
認知症発症危険因子(『ランセット(2020年)』より)
次いで、鳥取県と日本財団との共同プロジェクトで、鳥取大学・伯耆町・鳥取県が連携し、浦上先生を中心に開発した認知症予防プログラム:「とっとり方式認知症予防プログラム」の内容を説明され、介入調査の結果行認知症の発症や進行を遅らせることができると証明された解析結果を示されました。このプログラムは、県内の(民間を含めると)全地域に普及するばかりか、全国各地からの問い合わせに対しては無償で情報やツールを提供しているとのことでした。
とっとり方式認知症予防ログラム
その後、浦上先生が理事長を務められている設立後10年経った日本認知症予防学会の紹介として
(1) エビデンスの創出と普及
(2) 人材育成
(3) 地域連携の実現
の3つの目標を目指して、多職種の2500名近い方々が認知症予防の普及・啓発の活動をしていること、当学会が6月14日のアルツハイマー博士の生誕の日を「認知症予防の日」として制定したことも述べられました。
認知症予防学会の活動
最後に当日の講話の参考書として、本年3月に出版された浦上先生の高著「科学的に正しい認知症予防講義」のご紹介があり、終話となりました。
浦上哲也先生の近著『科学的に正しい認知症予防講義』
次いで大武代表理事・所長が「認知症予防手法を研究する方法」と題して、基調講演を行いました。
最初に、モノづくりの設計プロセスの概略を説明した後、医学系ではない、情報学・工学の研究者として、作ったモノを人々が使うことを通じて、社会がどうなるかから逆算してモノづくりをしたいという思いがあることについて述べました。そして認知症発症者の増加という社会的課題に貢献するべく、認知症予防効果が期待できるモノやコトを研究することを通じて、「人や社会に与える効果から逆算しモノやコトを設計する」効果設計手法を開発したいと考えて、研究を行っていることを、具体例を挙げながら説明を進めました。
機械設計から効果設計へ
まず、認知症予防とは、感染症予防上の、うがい、マスク、手洗いのようなセルフケアに相当するようなもので、認知症になりにくい状態や生活習慣である人は、その生活習慣を保つこと、認知症になりやすい状態や生活習慣の場合、その状態や生活習慣をかえるのを助けるのが認知症予防の手法であるという基本的な考え方を整理しました。そしてそれらは、食事・運動・知的行動・社会的交流いった生活習慣全般にわたるものであると説きました。
その研究が次の3ステップを経て行われていることを述べ、浦上先生の「とっとり方式認知症予防プログラム」を例に挙げて解説しました。
STEP1:メカニズムと観察研究・介入研究に基づく目標とする行動の定義
STEP2:目標とする行動ができるよう助けるプログラムの考案
STEP3:プログラムを実施し、参加者に与える効果検証
そして、STEP2の、目標とする行動をできるように助けるプログラムとしてー加齢に伴い低下しやすい3認知機能(体験記憶・注意分割・計画実行機能)の活用効果が期待でき、社会的交流がはかれる会話支援手法:「共想法」―写真を用いてテーマ、時間、順序を設定し、会話を行うものーに立脚した認知症予防プログラムPICMOR(ピックモア)を考案したと説明しました。PICMORは、ロボットが司会する写真を用いた会話による介入プログラムの英語表現(Photo-Integrated Conversation Moderated by Robots)を略したもので、ピックアップモア(インフォーメーション)、情報をもっと拾い上げよう、という意味をかけています。
PICMORプログラムのランダム化対照群付き比較試験を行った結果、プログラム参加者の言語流暢性が向上することがわかり、脳のMRI解析でも言語流暢性(言葉を取り出す能力)に関わる領域間の結合が強かったという結果を得ることに至り、効果検証のステップの緒に着いたと研究を位置づけました。
PICMORプログラムにおける会話手順とその検証結果
そして今後も、さらに理化学研究所やほのぼの研究所にてさらなる効果検証のための応用・基礎研究と、それらを可能にする基礎技術の開発、実施可能なプログラム開発、実施体制の構築を目指すと展望を述べて、結びました。
10分間の休憩を挟んで、鳥取の浦上先生と東京の大武所長との「科学的に認知症予防を考える」と題した対談は、チャットで受け付けた参加者からの質問に対しての回答からスタートしました。
浦上先生の画面背景に見えたハーブティ、アロマテラピーに関しての質問には、認知機能低下、特にアルツハイマー病発症者に効果があると浦上先生が検証なさった、日中と夜とに使用するとよいとされている浦上式アロマテラピーで使用する精油名を教えて下さいました。また、認知症発症リスク要因である難聴傾向の親族へのアドバイスとして、着用の時期が大事であると回答されました。また年代によって筋力低下にもつながりうる有酸素運動を行う長さについて、筋力運動との兼ね合いや、年齢、体力、筋力、骨量等を見極めて、バランスよく行うのがベストあると教えて下さいました。
また、コロナ禍でとっとり方式認知症予防プログラムを中断せざるを得ない期間があっても、実践者のサポートを得ながら、モチベーションを保って在宅でプログラムを継続した方々には認知機能低下が見られなかったという新しい情報も伺うことできました。
何よりこの対談の大きな実りは、10年前に勇気をもって日本認知症予防学会を設立なさるなど、長年にわたり、認知症予防の研究に邁進されてきた浦上先生の深い思いを伺うことができたということです。
「医師として、病気を治すための治療は勿論大事なこと。それと同時に、病気にならないようにしたいという思いは全ての病気に共通すること。認知症を特別扱いせずに病気として予防していくのは決して誤ったことではないと思っています。いまだに認知症に関する根強い偏見が残存していること、また玉石混交の誤った情報や商品が氾濫していることなどから、認知症予防に否定的な意見があるとも思われます。だからこそ、科学的にしっかり検証されたエビデンスのある認知症予防方法を啓蒙・普及していくことが必要であり、研究者としての責務であると考えています。」と穏やかな口調で力強く訴えられました。
事後のWEBアンケートには、9割近い方々から回答をいただきました。講演内容や今後の参加意向について、好評価をいただきましたことに安堵し、皆様のご視聴に心より感謝申し上げます。自由回答の中には「治療・予防研究の情熱や倫理的な姿勢から垣間見える、両講師のお人柄も感銘を受けた」というお声、さらに詳細、かつ多方面にわたる認知症予防情報や認知症予防活動の現場の声も知りたい等、参考になる前向きなご要望も多くいただきました。
今後もしばらくはオンラインでの講演会や企画が続くと思います。頂いた貴重なお声やアドバイスに添える、よりよいものにしていきたいと思っております。
なお、講演会当日、コロナ禍前まで継続コースの参加者にお集まりいただいていた柏市介護予防センター ほのぼのプラザますおのものしり館にて、初めて講演会ライブオンライン視聴会も開催しました、コロナ禍がしばらく収まっていることもあり、人数制限はあるも、講演会を端末でご視聴いただくのに不慣れな方々等にお声掛けをしたところ、新規参加者を含む7名のメンバーにお集まりいただくことができました。久方ぶりのメンバーの再会とご一緒に視聴が叶ったことを喜んでいただき、それぞれ自宅で視聴していた私共も、役立つ情報・知見をリアルタイムで共有できて、嬉しいことでした。今後適宜工夫を重ね、交流の輪を絶やすことのない活動を続けていきたいと思っております。
ほのぼのプラザますおでの講演会ライブオンライン視聴会
当講演会の模様は以下YouTubeにてご覧いただけます。
NPO法人ほのぼの研究所YouTubeチャンネル
また、認知症予防プログラムPICMORの効果検証論文、認知症予防プログラムPICMOR介入後の脳の安静時機能的結合に関する論文、コロナ禍におけるとっとり方式認知症予防プログラム参加者の認知機能に関する論文は、いずれも、オンラインでご覧になれます。
認知症予防プログラムPICMORの効果検証論文
認知症予防プログラムPICMOR介入後の脳の安静時機能的結合に関する論文
コロナ禍におけるとっとり方式認知症予防プログラム参加者の認知機能に関する論文
市民研究員 鈴木 晃・長久 秀子
柏市認知症予防講座の案内チラシ
昨年度は従来型の「3日間コース」に、40名以上の方が応募して下さったにもかかわらず、感染症対策のため、わずか9名の方にしか、ご参加いただけませんでした。一方、今年度は、1回に集まることができるのは、スタッフを除いて10名まで、という制限がありましたので、より多くの方に講座に参加していただくために、「1日講座」という企画にして、同じ内容の講座を3回実施することにいたしました。開講日によって、参加者数にばらつきがありましたが、認知症予防等に関する座学と、ほのぼの研究所の市民研究員による共想法の実演の見学、さらにご参加の皆様にも「好きな食べ物」をテーマに、共想法を体験参加していただくという講座内容で、3日間で延べ16名の方に、ご参加いただけました。
感染拡大防止のため、慣れないZOOMシステムを使ったリモート講座と、限られた会場スタッフの説明と対応を組み合わせた、昨年度のハイブリッドな講座とは異なり、今講座は、人数制限はあっても、参加者、講師、スタッフ間の対面・対話が果たせたばかりか、共想法の実演、体験に司会ロボット:【ぼのちゃん】が久々登場!ということもあり、会場は終始なごやかな雰囲気となりました。
例年3日間の講座内容を1日に凝縮した濃い内容となりましたが、事後のアンケートでは、参加者全員から、講座に対して「満足」「ほぼ満足」、「共想法」に関しても「理解できた」「ほぼ理解できた」という評価をいただきました。
市民研究員による共想法実演を見学する参加者
また、新型コロナ感染が下火になりつつあったとはいえ、まだまだ警戒を要する中、まなび館の広い会場スペースでは十分な間隔を保ち、こまめなマイクや機材の消毒、換気等感染予防に努め、無事に終了できたことに安堵したことでした。
開催にあたり、年度当初から、柏市、社会福祉協議会、ほのぼのプラザのスタッフの皆様にはいろいろご相談にあずかるとともに、ご尽力頂くなど、大変お世話になりました。心より御礼申しあげます。
なお、講座を通して認知症予防への理解を深め、「共想法」に興味をお持ちいただいても、しばらくは感染症対策として、【集合することなく、自宅等でスマホやタブレット端末を使って行う】:「遠隔共想法」を行うことが中心になることが想定されます。そのため、講座終了後、今回の「1日コース」ではご理解いただく時間が限られた「遠隔共想法」実施の様子を見学いただく日を別途設けま した。
果たして4名の見学者のうち、3名の方が継続コースに参加して下さることになりました。ほのぼの研究所にとって、お仲間が増えるという、嬉しいこととなりました。
市民研究員 魚谷 茜
ほのぼの研究所代表理事・所長の開会の挨拶に続き、ご来賓の公益財団法人キリン福祉財団の常務理事・事務局長 大島宏之様より、心強いご言葉をいただきました。ほのぼの研究所が提案するコロナ禍「自宅でできる共想法アプリ開発」プロジェクトは、2021年度の当財団の「地域のちから・応援事業」助成事業として、採択していただくという栄に浴しました。そこで、助成元として上記財団からご参加頂く運びとなりました。
ご来賓の助成元公益財団法人キリン福祉財団大島宏之常務理事・事務局長
招待講演の理化学研究所脳神経科学研究センター 神経老化制御研究チーム チームリーダー西道隆臣先生に、埼玉県和光市の理化学研究所よりご登壇いただき、「前臨床性アルツハイマー病と先制医療への展望」の講話が始まりました。
招待講演 西道隆臣先生
西道先生は筑波大学生物学類卒業後、東京大学大学院薬学系研究科修了 博士(薬学)。大学院在学中に米国コーネル大学に留学(応用物理)。東京都臨床医学総合研究所・遺伝情報研究部門主事を経て、1997年より現職。2014年に(株)理研バイオを設立、代表取締役を兼務。日本認知症学会理事。早稲田大学客員教授、慶應義塾大学医学部客員教授兼任。横浜市立大学・日本女子大学・千葉大学・東京大学・東北大学等の非常勤講師を歴任されております。また、「アルツハイマー病原因物質を分解する酵素ネプリライシンの発見」、「次世代型アルツハイマー病モデル動物の作製」等多くの業績を挙げられております。
まず、講話のタイトルの「前臨床性アルツハイマー病」とは、病気の原因となる現象が始まっているものの、症状がない状態であることを指します。「先制医療」とは、その段階で進行をとめてやることです。すなわち、先生の研究の目標は「アルツハイマー病がない世界をつくること」。そして団塊の世代の認知症有病率が特に増加する危険年齢:80歳代後半に及ぶまでが、研究開発の勝負の時であるとも述べられ、早々に研究に対する熱い思いを感じることができました。
認知症発症者の6〜7割がアルツハイマー病、次いで脳血管性認知症が2割を占めるとされます。脳血管障害において、脳の血液の行き場がなくなることで神経細胞死が起きてしまうため、両方の病変がオーバーラップしており、脳血管障害もアルツハイマー病のリスクがあるとされました。
次いで アルツハイマー病の以下を3大病変として、挙げられました。
(1) 老人班(アミロイドβの蓄積)―脳内神経の外に蓄積
(2) 神経原繊維の変化(タウたんぱく質の蓄積)―脳内神経の中に蓄積
(3) 神経変性(神経細胞死→脳の萎縮
さらに、アルツハイマー病の確定診断方法が、死亡した人の脳を解剖する剖検から、生きているうちから脳内の状態を可視化できるPET(Positron Emission Tomography):陽電子放出断層撮影法によるアミロイドイメージングやタウイメージング、MRIによる神経変性診断へと進歩したと、病変像を示して説明されました。
PETイメージングによる発症前診断画像
また、1906年にアルツハイマー博士が脳の病気として発見して以来の、アルツハイマー病の研究や、それに伴う治療薬開発等の歴史を、図1によってひも解かれ、病変のもとになるアミロイドβがやくざの親分、タウたんぱく質がヒットマンとして脳細胞を殺してしまうと考えるとわかりやすい、と説かれました。
アルツハイマー病研究史概略(図1)
そして、2000年以降のアルツハイマー病の機構研究から、アミロイドβの蓄積が発症20年前から既に始まっていることがわかったことを含めて、以下のように説明され(図2)、アルツハイマー病を予防する遺伝子変異の発見により、アルツハイマー病の治療標的が1)アミロイβ蓄積(老人班)、2)タウ蓄積(神経原線維変化)であることが確定するに至った経緯を述べられました。
アルツハイマー病の病理的時系列(図2)
なお、先般話題となった18年ぶりにFDAで条件つきで認可された抗体医療であるアデュカヌマブについては、アミロイド蓄積を確かに抑制されるものの、効果が期待される病期が限定的であること、高額な薬価、副作用等に関して問題点を挙げられました。
アデュカヌマブに関する問題点
他方、脳内アミロイドβの沈着を抑制するためには、西道先生チームが世界で初めて発見した、アミロイドを分解する酵素【ネプリライシン】が鍵を握ります。すなわち、加齢やアルツハイマー病の進行に伴い低下する脳内ネプリライシン活性を増強することが有効と考えられます。この、ネプリライシン活性を高める遺伝子を、アルツハイマー病モデルマウスの脳に導入、遺伝子治療を試し、蓄積したアミロイドを除去することに成功しました。
まだ不安のある遺伝子治療以外で予防する方法も模索していますが、この実験結果をもとに、安価で安全な経口の先制医療薬の研究開発に邁進していることを強く述べられました。また発症メカニズム研究に欠かせない、アルツハイマー病の病理を持つ次世代型モデルマウスの作製にも世界で初めて成功され、それらは現在ほぼ世界中に供与され、アルツハイマー病治療研究のために貢献しているというエピソードも披露されました。
脳の遺伝子治療の概念的進歩
ルツハイマー病の病理を持つ次世代型モデルの作製に関する記事と
アルツハイマー病の病理組織の3次元的再現(緑:アミロイド、赤:血管)
最後にアルツハイマー病のリスクを抑制するための要件を以下のように述べられ、さらに自身や身近な人に認知症の疑いがあった場合は、日本認知症学会の認定医資格を持つ医師による正しい診断を早め受けるようにとのアドバイスを下さり、終講となりました。
アルツハイマー病のリスクを下げるためのアドバイス
次いで、大武美保子代表理事・所長が東京の日本橋の理化学研究所から「言語活動を通じて認知機能の低下を防ぐ」と題して、基調講演をいたしました。
基調講演 大武美保子
まず導入として、脳や身体の疾患を原因として記憶、判断力などの障害が起こり、普通の社会生活を送れなくなった状態が認知症の定義であると確認した後、認知症発症の原因の大部分がアルツハイマー病と脳血管障害であることから、アルツハイマー病と脳血管障害の危険因子を挙げて、それぞれ予防(進行を遅らせる)ための有効なアプローチ方法を説明しました。
危険因子の一方である生理的要因には、有酸素運動など適度な運動や抗酸化作用がある飲食物を摂るといった食生活の改善等により、認知症の主たる原因疾患である脳血管障害や、アルツハイマー型認知症の病理的徴候のひとつであるアミロイドβ蛋白の沈着をおさえ、神経病理変化を遅らせるという生理的アプローチで対応することが有効です。他方、認知的要因には、複数の料理を同時に準備したり、新聞を読んだりするなどの知的活動や、家族や友人と会うなどの社会的交流により、認知症になると衰える認知機能を必要とする認知活動を行うことで、神経病理変化が認知機能へ与える悪影響を減らすー認知機能の低下を遅らせる認知的アプローチで対応することが有効だと述べました。
認知症の予防
アルツハイマー病の予防
また、特にアルツハイマー病の予防の観点から、神経病理変化が進行しているにもかかわらず、認知機能が保たれる場合―知的行動や社会的交流が多い人は認知機能低下の幅が小さい―があると付け加えました。
そうした神経病理変化があっても、認知機能が保たれるケースを示すもののひとつとして、アメリカの修道女の研究“Num Study”(修道女の剖検をしたところ、生前認知機能が保たれていても、アルツハイマー病にかかっていた修道女がいた。言語能力が鍵を握るとの知見)があります。この研究については『100歳の美しい脳』(Aging with grace)という書籍でも紹介されています。その著者らの書いたと論文の中に、20歳代に書かれた文章から推定される、青年期の言語能力が高い修道女は、低い修道女と比べて、80歳代におけるあるアルツハイマー型認知症発症率が低かったこと、その言語能力は意味密度で推定された(意味密度:一文に含まれる命題数÷単語数)ということが導かれていたことを紹介しました。
修道女研究が紹介されている『100歳の美しい脳』
そして、この研究に着目した大武所長がその研究に関わった言語学者であるSusan Kemper先生を日本に招聘、日本語と英語の構造の違いを超えて言語特徴量から認知機能を推定するための考え方について議論することを経て、会話に用いられる語彙の豊かさから認知機能を推定することができるという研究論文を出す至った経緯を述べました。
「会話に用いられる語彙の豊かさから認知機能を推定できる」
また、言語活動と認知的アプローチの関係について、言語は知的活動(論理や思考)の基盤であると共に、社会的交流や感性・情緒の基盤でもあり、その言語能力を高めるためには言語活動(話す・聞く・書く・読む)をすればよく、このうち、話す・聞くが会話に相当すると整理しました。
さらに、話す・聞くという言語活動をより効果的に行うために開発実践していた共想法の会話の効果を検証すべく、「ロボットが司会する写真を用いた会話による認知機能介入プログラム(PICMOR)のランダム化対称群付比較試験」を実施したことを報告しました。
PICMORプログラム<
共想法に参加する人はテーマに沿った写真を用意し、参加者が用意した写真を見ながら会話を行い、さらに(直後・1週間後)に写真を提供した人を当てるというプログラムを1週間に1回、12回行い、この共想法方式の会話をした人と、雑談に参加した人とを比較しました。プログラムに参加する前後に検査をしたところ、共想法形式の会話参加者の方が、言語流暢性という言語能力に関連した認知機能が向上したこと、共想法形式の会話中に用いられる単語数に対する単語種類数が雑談の場合よりも多く、共想法形式の会話は、雑談に比べて、言語能力をより発揮する機会を提供するものであることが確認できました。以上を論文として発表したことを報告しました。
こうしたことから、神経病理変化がたとえ起こったとしても、言語能力を高めておくことで、認知機能に与える悪影響を小さくできる可能性があり、その言語能力を高めるためには会話を注意深く行うことが有効と説明しました。今後も長期的な影響を調査する実験を継続し、さらにどのような言語活動が認知機能低下の予防に役立つか究明していきたいという抱負を述べて、終講となりました。
10分間の休憩を挟んで、和光市の西道先生と東京の大武所長との「アルツハイマー病と認知症予防研究の最前線」題した対談が始まりました。
対談 西道先生・大武美保子
対談は、招待講演について、視聴者が難しく感じるであろう内容について大武所長より質問し、西道先生からよりかみ砕いた答えを伺うことから始まりました。西道先生が発見された【ネプリライシン】という酵素を活用した、誰もが手ごろな価格で利用できるような治療薬として開発が成功するまでの要件、点滴薬と経口薬の違い、実験モデル動物、遺伝子治療に関する質問にも丁寧に解説して下さいました。また、言語能力を高めるようなテレビの視聴方法は?睡眠導入剤を使った睡眠でも、脳の中で記憶が整理されるのか?という参加者からの質問を取り上げながら、幅広く議論しました。
分野や手法は異なるものの、西道先生は先制医療を通じて「アルツハイマー病のない世界をつくること」を、大武所長は非薬物療法をもって「防ぎうる認知症にならない社会づくり」を目的として、認知症発症者を一人でも少なくするという、喫緊の大きな課題解消のために同じ方向に向かって日々研究に邁進している研究者同士です。この専門用語が飛び交うことがあり、その道に詳しくない視聴者が入り込みにくい時もありましたが、そうした雰囲気から、かえって両講師の真摯な研究姿勢を感じることのできた対談でもありました。両者の研究がいずれ繋がり、その大きな目的に一歩でも近づく糸口がみつかる時を待ち遠しく思うのは、私達だけではないと感じたことでした。
事後のアンケートでは、諸般の都合よる音声、進行の不備へのご指摘はいただきましたが、講演内容については、9割以上の方にご満足いただき、同率で「役立つ情報が得られた」というご意見をいただき、開催者として休心しております。今後は機器、進行に関する技術を向上させ、快適な環境で貴重な情報や知見を共有させていただく機会を提供していきたいと思っております。
ご視聴いただいた方々に感謝申し上げます。
なお、本講演会の講演および対談は、弊所公式YouTubeチャンネルにてご覧いただけます。
NPO法人ほのぼの研究所YouTubeチャンネル
市民研究員 鈴木晃・長久秀子
動画をクリックすると再生が始まります。大きい画面でご覧になりたい方は、その後右下に表示されるYouTubeという文字をクリックすると、YouTubeのページが開きます。YouTubeのページからは、全画面表示が可能です。
招待講演
【アルツハイマー病と認知症予防研究の最前線】前臨床性アルツハイマー病と先制医療への展望―西道 隆臣
基調講演
【アルツハイマー病と認知症予防研究の最前線】言語活動を通じて認知機能の低下を防ぐ―大武美保子
両講師の対談
【アルツハイマー病と認知症予防研究の最前線】対談ー西道隆臣×大武美保子
2020年度の活動は4月7日の緊急事態宣言でスタート。在宅高齢者の外出自粛による認知機能低下リスクが高まる中、集合して会話をすることが認知症予防につながるという考えから会話支援手法「共想法」の研究開発と普及に取り組んできたほのぼの研究所は、感染予防上集合して会話することが危険であるとして、活動をオンライン中心に切り替えた1年でした。
果たしてオンライン活動にもかなり慣れてきたことから、昨年度同様、協働事業者(埼玉県の認定NPO法人きらりびとみやしろ、茨城県の介護老人保健施設マカベシルバートピア、大阪府の有限会社野花ヘルスプロモート)、共想法継続コース参加者、「お江戸共想法」の実施者、理化学研究所の担当者、そして市民研究員の20数名が、延べ4時間以上にわたり、オンラインにて参加いたしました。
2020年度合同研修参加者
合同研修の開催意義と2020年度活動の概要を述べた大武所長のあいさつを皮切りに、以下の順にて各拠点の活動報告をしました。今回は司会の鈴木晃研究員の、10分間の持ち時間終了3分前にベルで合図するなど、徹底したスケジュール管理のもと、遅滞なく進行していきました。それぞれの発表報告を順にご紹介いたします。※氏名後(S)は発表者
≪2020年度活動報告≫
発表資料
【協働事業者 きらびとみやしろ】「令和2年度「きらりびと共想法」活動報告-<きらり姫宮〉〈子育て支援事業〉のコロナ禍の工夫・過ごし方」
野口宗昭市民研究員・田崎誉代市民研究員(S)
10年目に入ったきらりびと共想法が、集合形式での実施が中断していること、他拠点で試行が始まった遠隔共想法のスタートが、諸般の都合で遅延しているとの報告がありました。2020年後半から準備が始まったということで、2021年度の本格導入を待ち望む気持ちが述べられました。福祉活動を広く行っている認定NPO法人きらびとみやしろが、綿密な感染予防対策を施して展開している「きらり姫宮」「子育て支援事業」の活動の実態報告もあり、ご苦労を痛感しました。そして、1日も早いきらりびと共想法のメンバーとの遠隔共想法を通しての交流再開が待たれることでした。
【協働事業者のマカべシルバートピア】「マカベ゙シルバートピアの活動報告」
永田映子市民研究員(S)
2011年のスタートから9年16期を迎えた介護老人保健施設における共想法やお話の会の実施報告がありました。参加者の平均年齢が90歳近いこともあり、もとよりその実施のご苦労は並大抵ではありません。さらにコロナ禍で、参加が制限されたり、家族との交流が途絶えた中で、認知機能検査結果(長谷川式)が明らかに低下したという報告は、察せられる結果とはいえ、コロナ禍の影響を現実のものとしてとらえたのでした。
最後の、全国介護老人保健施設記念大会別府大分(2019年度開催)での「会話支援ロボットと高齢者とともに創る共想法の未来」の研究発表が奨励賞を受賞したという嬉しい報告は、多忙の業務の中での絶え間ない研究活動に敬服、誇らしく思うと共に、メンバーへの良い刺激にもなりました。
【協働事業者有限会社野花ヘルスプロモート】「野花cocofit共想法から報告及び現状と報告」
「共野花cocofiモート 正木慎三(s)・篠倉拓
施設関係者のコロナ感染者発生はなくても、介護福祉施設としては、参加者募集や集合、固定が不可能になり、加えてスタッフの勤務体制変化などもあり、共想法の実践はできなかったとの報告がありました。また、メンタルを傷めた方々を対象にした「こころと行動を支える施設」として、2019年に開設された同社が運営するcocofitは当初利用者への支援プログラムとして「共想法」を取り入れていましたが、コロナ禍で悩みを抱える利用者は増えるも、個別ニーズに応じた対応や心療内科との連携、Zoom等のツールも用いてのプログラム変更等があり、活用できていないという課題が報告されました。
そのため、大武所長からは、次年度からの、使い勝手が改善された次世代遠隔共想法支援システムの活用の提案がありました。
なお、事後のWEBアンケートでは、心に不安を持つ人々が多くなっているという時世がらもあるのでしょう、cocofitについては参加者の関心の高いテーマとされました。
協働事業者3拠点の発表を終了した時点で設けた質疑応答の時間では、諸般の事情はあるものの、感染や自粛に対する誤った反応が、高齢者のQOL低下や、施設運営やスタッフへの影響にもつながったという現実が語られ、新型コロナウィルス感染を「正しく恐れる」ことの大切さを改めて実感しました。なお、事後アンケートでは、コロナ禍で難題、課題を有しながらも様々な工夫をこらして、果敢かつ柔軟に対応している3施設の事例の発表が、興味を持ったり、参考になった発表のトップに挙げられました。
発表資料
【ほのぼの研究所 共想法継続コース】「共想法継続コース」
田口良江市民研究員(S)・根岸勝壽市民研究員(S)
10年目を迎える継続コースは「認知症になりにくい暮らし」を年間テーマに設定し、実施しました。コロナ禍により、実施会場:柏市介護予防センター:ほのぼのプラザの利用制限時期もあり、集合しての共想法を実施せず、可能な方から順に、遠隔共想法を実施しました。その間、参加者十数名それぞれと、Eーmail、ショートメッセージ、電話、郵送と、参加者の都合に合わせた手段で連絡を途切れずに行ったこと、ほのぼのプラザが制限を設けて利用可能になった時には、個別に時間を決めて1対1からの遠隔共想法を始めるサポートを丁寧に行ったこと、参加者と相互学習をしながら遠隔共想法の参加方法を会得していった事例など、交流の途絶えがちな方々とも密に連絡を取りながら、徐々に遠隔共想法の参加者が増えていったプロセスを語りました。まだ共想法と遠ざかっている方々の近況報告からは、誰もがいつでも快く参加を継続、再開できるよう、たゆまず、フラットな信頼関係を築いている熱意を感じました。最後に根岸研究員から、コロナ禍でも遠隔共想法を通して繋がることができることへの感謝が述べられました。
【ほのぼの研究所 柏市認知症予防講座】「柏市認知症予防講座『今こそおうちで認知症予防』」
松村光輝市民研究員・魚谷茜市民研究員(S)
まず初めに、コロナ禍でありながら、9月から会場のほのぼのプラザますおの利用制限が緩和され、予定どおり9〜10月の3日間開講できた幸運を述べました。長い自粛期間による認知機能低下への懸念や、学びや外出の機会を得たいという気持ちの反映か、30名を超える応募者がありました。しかし、感染予防の観点で、会場の定員が本来の半分以下と定められたことから、参加者9名、現地スタッフ3名での開催となったとの報告がありました。その代わり、遠隔会議システム(Zoom)を活用し、講師の大武所長が東京から、市民研究員とテクニカルスタッフがそれぞれ神奈川、埼玉からサポートし、会場の千葉県と合計4カ所をつないでの、初のハイブリッドオンライン講座としたとの報告が続きました。
会場スタッフの多大なご協力と入念な準備の結果、大過なく終講しました。しかし、オンライン会議システムの音声が対面と比べて聴き取りづらかったこと、遠隔共想法に用いるスマホ端末を感染予防上直接触って操作していただけなかったことなど、コミュニケーション上の制約を実感しました。withコロナ、afterコロナを含めた、魅力ある講座の企画や、より若い高齢者層や、男性の参加を促す講座タイトルについてが課題として挙げられ、その後の質疑応答に続きました。
【ほのぼの研究所 講演会】「2020年度講演会実施報告」
鈴木晃市民研究員・長久秀子市民研究員(S)
例年、会場で開催してきた設立記念講演会、クリスマス講演会を、共にオンラインにて開催した報告をしました。2020年8月25日には、疲労学の権威である理化学研究所の渡辺恭良先生を講師にお招きして、設立記念講演会「今こそ、実践!真の健康づくり」を開催しました。2020年12月22日には、認知症予防学会副理事長で園芸療法を第一線で実践研究される西野憲史先生を講師にお招きして、クリスマス講演会「コロナ禍での認知症予防」を開催しました。いずれも、招待講演・大武所長の基調講演・両講師の対談の3部形式としました。
12月末にはほのぼの研究所の公式YouTubeのチャンネルを開設し、2講演、計6講演の動画配信も始め、2020年度がオンライン講演会元年であったと述べました。
2回のオンライン講演会と、2019年度までのオフラインの講演会の時系列の参加実態と比較して得られた、集客の課題、賛助会員様の特典としての講演会のあるべき姿、そして視聴しやすく、魅力的なオンライン講演会企画のための、運営初心者としてスキル獲得の必要性等の課題を述べて結びました。
合同研修資料
【お江戸共想法】「2020年度実施報告 お江戸共想法」
お江戸共想法実施者斉藤千鶴子(S)・江口美代子(S)
お江戸共想法もコロナ禍で開催が中断されましたが、夏からは遠隔共想法を12名が参加して継続して実施しているという報告がありました。ほのぼの研究所の参加者同様、1人対1人から初めて、最近はシステムの扱いにも慣れてきて4名間でのグループ会話を楽しんでいる模様を報告しました。9月には、直接会ったことがない者同士で遠隔共想法ができるか確かめることを目的として、お江戸共想法参加者と、柏のほのぼの研究所の市民研究員、継続コース参加者とで、「早寝、早起きしてみた」のテーマにて遠隔共想法を実施、交流したとの報告がありました。
次に、遠隔共想法に対する感想や、コロナ禍前後の交流の比較についてのアンケート結果報告では、コロナ禍での交流機会が激減した中、顔が見えなくて残念でも、遠隔地や在宅でも楽しんで交流ができることを楽しめるようになったこと、機器の不慣れ、不具合や使い勝手に課題があることが述べられました。最後に、コロナ禍がおさまった折には、実施したことのない街歩き共想法をしたい!という熱い思いで締めくくられました。
【ほのぼの研究所】「遠隔共想法アンケート結果」
松村光輝市民研究員(S)・清水きよみ市民研究員
お江戸共想法と同じアンケート調査の、市民研究員と継続コース参加者の結果報告がありました。遠隔共想法については、在宅で、同世代の人に先駆けて、オンラインで共想法を通して交流が可能になったとの意見と共に、お江戸共想法で挙げられた課題の他、非対面であることにより、会話が対面ほどスムーズではないことが挙げられました。交流については、外出・対面機会が激減したため、電話やZoomでのコミュニケーションが増加したという実態や、空いた時間、いわゆるおうち時間の有効活用を考えたという前向きな意見に加えて、遠隔共想法参加や、定例のオンラインの研究会が心のよりどころになっているという、市民研究員の声もありました。
質疑応答では、試作段階ながら、コロナ禍によるニーズに応えるために試験運用している現システムと平行して、次世代遠隔共想法支援システムを急ピッチで開発しており、間もなく試用できるという明るい情報を知るに至り、大いに期待を膨らませたことでした。
【企業連携】「企業連携を主として」
小暮純生理化学研究所 認知行動支援技術チーム 技術経営顧問
各拠点の報告に続いての小暮先生の報告では、2020年度の概要報告に続いて、最近の主要活動として、飲料メーカーや和光市との共同研究の支援を引き続き行うこと、また新規の連携開拓、推進案件として、松戸PJ関連の東葛エリアで活動を開始したNPO法人と、さらにマスコミでも広く報道されたポテンシャルがあるとされるW社や、高齢者向けロボットの評価を期待するV社との連携開拓が推進されているという、興味深いトピックの報告がありました。これまで連携していた研究機関、企業との、別の形での関係維持等、幅広い分野での進捗状況の報告がありました。
【2020年度まとめ・2021年度方針】
NPO法人ほのぼの研究所 大武美保子代表理事・所長
まず、2007年から5年ごとに設定した共想法研究の中期計画について、改めて整理しました。共想法を種(シーズ)とした時に、どのように展開するかをまとめたものです。
2007年- 種を苗(サービス)に
2012年- 苗を畑(非営利事業)に
2017年- 畑を試験農園(検証事業)に
2022年- 試験農園を各地、各国に、農園(営利事業)の立ち上げを支援
2027年- 農園を各地、各国に
2020年度に至るまでの共想法の研究体制の推移、ほのぼの研究所の役割、さらにほのぼの研究所の実施・普及・支援・育成・研究という5つの柱の事業の進捗説明がありました。
続けて、2020年度の5つの事業の実績を述べた後、2022年- 試験農園を各地、各国に、農園(営利事業)の立ち上げを支援、を見据えた、前タームの最終年としての2021年度のイメージを述べました。
次いで2020年度には「新型コロナウィルス流行により、薬やワクチンが確立するまで、集まって行動することができないこと」を前提に「目的に即して新しいやり方を考えて実践する」という目標を目指して活動した以下の成果を具体的に述べました。
〆濛陲任粒萋以法の確立(研究会・研修)
一カ所に集まらないで社会的交流を実現し、認知機能を訓練する方法の考案、実践
続いて「ワクチン接種が進んでも、集合しての活動は慎重に行うことが求められること」を前提として、2021年度の目標を「新しいやり方の実践の輪を広げる」と掲げ、2020年度に構築を始めた遠隔共想法を基盤とするサービスを外部に展開すること(遠隔共想法参加者から実施者へ・連携先の遠隔共想法を支援)をメインに、これまでの事業を続けながら、さらに新しく取り組む活動案が示されました。
すべての発表後の総合討論では、「初めての人に共想法の良さを伝え、参加してみたいという気持ちになっていただくためにはどうしたらいいか」という根本的かつ難しい質疑に対して、各拠点から経験に基づいた妙案が多数挙げられたのは大変興味深いことでした。一般的に、高齢者は何かを始めること自体に前向きでない場合が多いためです。共想法のよさは体験すると伝わるので、詳細に説明するよりもまず体験してもらった方がよい、といった意見が寄せられました。
近々の高機能な次世代遠隔共想法支援システムの試用開始という、期待できる報告に加えて、「世の中に高齢者が受け身で使うシステムは多数あるものの、高齢者がシステムを使いながらサービスを提供する側に回ることができる、遠隔共想法のようなサービス・システムは最先端である。それによって、みんなを元気にする推進力になるよう一歩一歩近づいていきたい。」という、大武所長の熱い思いを伺い、2021年度の活動への意欲が高められたことでした。
そして、1年間オンライン活動、相互学習を重ねた結果、合同研修への初参加者が増え、大変スムーズに遂行できたこと自体が、大きな成果のひとつであると確認し、無事終会となりました。
市民研究員 長久秀子
新型コロナウィルス感染の拡大防止のために人との交流が制限された結果、高齢者の認知機能低下・認知症発症者増加へのリスクが高まっています。今回はその防止の取り組みにフォーカスした「コロナ禍での認知症予防」をテーマに掲げ、認知症予防学会を設立し、研究とその実践に日々ご尽力の西野憲史先生を招待講演講師としてお招きし、招待講演」「基調講演」「両講師の対談」の三部形式としました。
講演会投影資料表紙
大武美保子弊所代表理事・所長の開会挨拶に続き、早速招待講演講師の西野憲史先生に北九州市のご自身の医療施設よりご登壇いただき、「認知症予防の基礎―コロナ禍における実践」と題した講話が始まりました。
招待講演講師 西野憲史先生
西野憲史先生は日本大学医学部ご卒業で、同大学循環器科にて動脈硬化症の予防にて博士号を取得なされました。1986年にご出身の北九州市に西野病院を開設、以降医療法人、社会福祉法人、NPOを設立され理事長として、地域での医療並びに認知症予防活動を実践なさっております。また2011年日本認知症予防学会(2019年に一般社団法人日本認知症予防学会に名称変更)の設立に寄与され、現在副理事長として幅広くご活躍です。また2007年以降、アメリカ、アジア各国の園芸療法士と連携され、園芸療法の非薬物療法としての認知症予防の実践、研究に積極的取り組まれております。
なお、西野先生には、師走のお忙しい中、急遽のご登壇の依頼に加えて、ほのぼの研究所クリスマス講演会恒例のクリスマスコスチュームのご着用までご快諾いただきましたこと、心より感謝申し上げます。今回は視聴希望者にはガーデニングや家庭菜園などで園芸を楽しんだり、身近なテーマと感じたり、施設関係者も多く、先生のご講話への期待は高いものでした。
ご自身の施設の美しい庭園をバックにご登壇の西野先生は1.わが国の高齢化、2.コロナ禍の暮らしの変化、3.認知症の原因、4.認知症の予防と対策、5.園芸療法の有用性について、興味深い資料や実生活の事例を挙げながら、大変わかりやすいご講話をご提供下さいました。
講話早々、「加齢に伴う各種身体機能の変化」のグラフで示された20〜24歳の時の身体機能を100とした場合の55〜59歳の人の変化には、日頃の実感を証明されて大いに納得、各項目の変化の落差に愕然としたものでした。
加齢に伴う各種身体機能の変化
また、高齢化が進むにつれ、健康寿命の短縮の可能性があること、さらに、そうした背景や癌に比べて予防や治療が難しいとされていることからも、認知症が、高齢者が一番なりたくない病気でも、子供世代が親になってほしくない病気でもトップだという、厳しい現実を語るデータも示され、日本の超高齢社会の課題、大きな変化は認知症の発症者の増加だとされました。
さらに、世界中で認知症に関する研究が進む中、認知症発症の様々な危険因子とされるもののうち、特に大きな危険因子として挙げられるのは、アルツハイマー型認知症では糖尿病、脳血管性認知症では高血圧症であること、しかしながらこれらを含めた危険因子の多くはライフスタイルの見直しでリスクを減らす可能性があるという研究が進んでいることを述べられ、アルツハイマー型の発症にかかわる脳へのアミロイドβの沈着を抑制、認知症予防につながるものとして、7時間以上の良い睡眠が注目されているというトピックも提供されました。
認知症の発症にかかる危険因子
次いで、2011年の設立以来日本認知症予防学会が提唱する認知症予防の3段階予防法に基づき、2500人余の会員の認知症予防のためのエビデンス創出とそれに基づいた研究・実践活動により認知機能の障害を改善できる部分があるということがわかってきたと説明されました。
日本認知症予防学会が提唱する認知機能の3段階予防法
最後に西野先生が欧米やアジアでその有用性への注目が高まっており、それらの地域の実践・研究の連携も通して、ご自身の各施設、NPOで研究、実践を推進していらっしゃる園芸(自然)療法について熱く語られました。施設で行われる様々なアクティビティに加えて、MCI(軽度認知障害)の進行抑制、認知症のBPSD(行動障害等の周辺症状)の予防と改善のための非薬物療法として、障害のレベルや能力に応じて(すべての予防段階において)取り入れられたところ、園芸療法のもつ「賦活」と「沈静」両作用が見られたと述べられました。BPSD症状を軽減するばかりか、様々な園芸活動に付随する関わりを通じて活動を活性化し、五感を豊かに刺激することになり、長期間実践することにより認知機能の改善が維持されたというエビデンスを解説、園芸(自然)療法の有用性や意義を述べられました。
園芸療法の有用性・効果
そしてWHOの提唱するQOLの実現に向けての身体面、社会面、精神面に並ぶやる気、意欲の領域において、この不思議な力を持つ園芸療法等による自然とのかかわりが生活の質を大いに高めることができると確信していると結ばれました。
画面に映し出された、美しい自然豊かな施設や、素晴らしい環境の中での様々な園芸療法の場面の画像から、充実した時間を満喫され、幸福そうにお見受けするご参加の皆様の表情に、心が潤う思いがいたしました。また、事後アンケートでは、自然豊かな環境での取り組みに心を打たれた、園芸療法に改めて興味を持った、やってみたい、できそうという感想や、自らが植物と対峙して心が癒された経験など、嬉しい声が届きました。
最後に日本認知症予防学会からの新型コロナウィルス拡散に対する提言をお示しいただき、終講となりました。
日本認知症予防学会からの提言
次いで、大武美保子代表理事・所長から「オンライン認知症予防活動」と題して、基調講演をいたしました。
遺伝以外の要因が大きい病気に対しては病気ごとにその方策が存在するも、「人との密な接触をさけるべき」新型コロナウィルス感染症と「人との交流をすることが有効である」認知症では、その方策が衝突しており、それがまさしく今般のコロナ禍の課題であるとしました。そこにおいて、「人と交流する以外に、有効とされる活動をする」西野先生の講話にあった園芸療法、五感刺激療法、音楽療法等と並びうるものとして、「人との密な接触を避け、オンラインで人と交流する」方策として、2020年より本格的に取り組んでいる、集合することなく、「同じ写真が表示される端末を見て会話する」遠隔会話支援システムを用いる方策(手法)について解説しました。これらの手法は五感を刺激するという要素は欠ける面がありますが、その分を言葉の力を使う方法として位置づけているとしました。
会話の認知機能訓練効果が認められているものとして、先行研究として行われた定期的に一定期間高齢者が会話を継続するWEB会議システムによる会話実験では、電話によるインタビューに対して言語流暢性※が向上したという研究とがあります。また、さらにエビデンスの収集が必要ですが、大武研究室が行った会話ロボットが司会する写真を介して行う会話実験研究(共想法)でも自由会話に対して同じような結果が見られています。(言語流暢性:ある文字で始まる言葉、あるカテゴリーの言葉を一定時間内にどれだけいうことができるかで測られる能力)
今回の講話では、コロナ流行下、認知症予防につながると考えて継続してきた「集合して会話する」会話支援手法、共想法の研究開発及び普及が叶わなくなったため、感染症拡大以前より遠隔地との会話を実現するために開発していた、在宅で会話ができる遠隔会話支援システムを活用することで、集合しなくてもオンラインにて交流ができる方策に切り替えた経緯と実態を説明しました。
遠隔会話支援システムの動作フロー(一部抜粋)
これは、スマートフォンおよびタブレットアプリケーション上に、順に映し出される、参加者が撮影した写真を見ながら、順に会話ができるものです。テーマに沿った写真を持ち寄り、時間と順番を決めて話題提供、質疑応答する、その後自分が話した内容を200字にまとめるという、共想法本来のルールとその活動に伴って加齢により落ちやすい認知機能を活用できるという原則を述べ、IT端末に慣れていない人とは地道にステップを重ねながら、併せて端末の機能評価・改善を図りながら、徐々に多くが参加できるようになった経緯を述べました。
また、認知機能訓練として共想法に参加し、一定の質を保つ会話をするためには、決められたテーマを心に留めて観察、行動するライフスタイルが求められ、そのことが五感の感度を高め、言葉の理解力が上昇する、すなわち共想法で使われる「見る」「聞く」「話す」の感度が高まり、それが脳の働きにも反映するとの考えと述べ、この6か月間に行った共想法の「観察する」「行動する」カテゴリーのテーマの中から、「歳を重ねて気づいたこと」「免疫力を高める工夫」のテーマで提供された2つの話題を紹介しました。
共想法による認知機能訓練により高められるとされる感度
最後に、今後しばらくは続くと思われる集合や外出が制限されるwithコロナ、そしてafterコロナの時代に向けて、新しくスタートを切ったこのオンラインによる認知症予防活動ツールを進化、拡大させていく展望と抱負を述べて、終講としました。
5分間の休憩を挟んで、北九州市の西野先生と東京の大武所長との「コロナ禍での認知症予防」と題した対談が始まりました。今回は短い休憩時間でしたが、講師に質問する機会を設けました。最初に20件ほど寄せられ質問のうち、西野先生が関わっていらっしゃる園芸療法や音楽療法に関する質問に答えられました。なお、当日回答ができなかった全ての質問に対して後日メールにて回答しました。
西野憲史先生と大武美保子所長との二元対談
その後、西野先生は、それまで認知症治療は精神科における重度患者の治療が中心だったため、「認知症になりたくない」という人々の思いを背景に、また内科医の立場から早期発見、生活習慣病の予防・治療を含めた幅広い予防が必要だという思いから、日本認知症予防学会を立ち上げた熱い思いを語られました。
またご自身で園芸療法を始められたきっかけとして、通院、入院患者さんたちが植物や自然と接する活動の受容性が最も高く、植物が持つ賦活と沈静という不思議な両作用が人間をニュートラルな状態にしてくれることが実感できたからと述べられました。
認知症の予防となる生活習慣病改善のために必要でも、どうしても食生活の節制ができない人は、入院も視野に入れて一定期間身体によいものを食して、身体にその心地よさを感じさせる方法も一法だとアドバイスされました。
そして、認知症予防において重要な三要素である〕酸素運動、楽しく頭を使うことコミュニケーションをはかることのうち、共想法は、楽しく頭を使うことコミュニケーションをはかること、を具体的に高めていく上で素晴らしいツールになるとの励みになるコメントを頂きました。
オンライン講演会は2度目、今回はウェビナーを利用しての開催となりましたが、準備はしたものの不安は尽きず、果たして音声等については、貴重なご意見をいただくことになりました。しかしながら、講演内容や今後の参加意向につきまして、好評価をいただき、大過なく終えることができたことを、安堵すると共に、ここに改めて、ご参加いただきました皆様に感謝申し上げます。
今後もしばらくはオンラインでの講演会や企画が続くと思います。いただいた貴重なアドバイスやご希望に添える、よりよいものにしていきたいと思っております。
なお、本講演会の模様は以下YouTubeにてご覧いただけます。
https://www.youtube.com/channel/UCz7L-TE_oqgoLORFqNoIoZA
市民研究員 鈴木 晃・長久 秀子