20世紀において、科学技術研究は社会とはいったん切り離された形で実施され、得られた成果を後から社会に普及する、というスタイルが一般的でした。しかし、科学技術の発展が、必ずしも社会の幸福につながらないという問題も同時に発生しました。高齢社会を迎えた21世紀において、高齢者のくらしを支える技術、その基盤となる高齢者の脳機能の科学など、当事者である高齢者をぬきにして、現実社会の問題解決に有効な科学技術を発展させることは困難であると考えられます。
そこで、研究者が、研究室や研究所といった、閉じた空間の中で研究を行い、その成果を社会に展開するのではなく、社会の中で、市民と共に研究を行いながら、成果をリアルタイムで社会に展開する研究システムを構築します。このようなシステムを構築することで、市民に、科学技術研究に参画し社会に貢献するという、楽しみと生きがいを提供することができます。「ほのぼの研究所」では、高齢社会の問題、特に認知症をテーマに、高齢者がヒトの認知機能を解明する科学研究に参加し、認知症予防回復支援する社会サービスを提供する仕組みを構築します。
超高齢社会を迎え、新たな産業や社会構造の創出が求められる今こそ、科学技術が生まれ変わるチャンスであると考えられます。さつばつとした社会を、ほのぼのした社会に変える科学技術研究の進め方を、プロジェクトとして定位し、社会に発信したいと考え、「ほのぼの研究所」を開設することにしました。本研究所は、いわば、街全体をキャンパスにしようとする取り組みであり、多くの市民の英知を結集することで、21世紀ならではの科学技術が生み出される可能性を秘めています。
民産官学連携研究拠点・NPO法人
ほのぼの研究所 代表理事・所長
理化学研究所 チームリーダー 大武美保子